2024年11月24日( 日 )

「尖閣諸島をめぐる日中対立の真相と今後の打開への道」(4)

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国際政治経済学者 浜田 和幸

 劉教授の話を放っておけば、そのような日本政府にとって不都合な歴史的事実を証明することになりかねない。しかも、このような遺言書やその内容については、その存在そのものを消し去ることが国益に適うと判断されたと、劉教授は述べている。そうした背景があるため、日本政府はこれまで伊澤弥喜太氏については公式の文書ではほとんど触れようとせず、古賀辰四郎氏のみを大々的に表彰してきたというのである。

 こうした劉教授の論文や国際会議を舞台に中国が展開する宣伝戦の影響であろうか、日本国内にも尖閣諸島に関しては、中国の領土であるために当然中国に返還すべきだ、とする意見も出始めている。これこそ要注意である。

 たとえば、元国際貿易促進協会の常務理事・高橋庄五郎氏は、「尖閣諸島は歴史的にも地理的にも台湾(中国)に付属する島嶼だ。日清戦争の結果、魚釣島と台湾は中国から割譲され日本領となった。日本は敗戦時にポツダム宣言を受諾しており、カイロ宣言に照らせば台湾とその付属する領土は日本から切り離されることになっている。であるならば、尖閣諸島の領有権は最終的に中国に帰属するのが当然のことだ」としている。

 さらには、元外務省情報局長・孫崎享氏曰く、「尖閣諸島に関しては2つの選択肢しか存在しない。1つ目は『尖閣諸島は日本固有の領土であり、日中間に領土問題は存在しない』とすること。2つ目は『尖閣諸島は日中間の係争が存在する土地であり、それを認めたうえで衝突を回避する道を選択する』こと」。

 現状では日本政府の立場は孫崎氏が最初に述べているように、「領土問題そのものが存在しない」とするものであり、「歴史的にも国際法上の観点からしても尖閣諸島は日本固有の領土である」に尽きる。それに対し、中国は一貫して日本の主張に異議を唱え、さまざまな国際会議や国際メディアをターゲットに「日中間にはこの領土問題が未解決のまま、すなわち棚上げされたまま今日まで存在している」と主張しているのである。

 日本政府がこの問題を「存在しない」として取り上げないまま、現状の姿勢を貫こうとすればするほど、中国政府は国際的な情報広報活動を強化するに違いない。清華大学の劉教授の論文や国際会議を利用しての発言はそうした中国の対外情報工作の一環といえるだろう。

 劉教授が発掘してきた伊澤氏の証言文書にしても、たとえ中国人が先にこれらの島々にわたっていた場合でも、国際社会に向けて領有を宣言したのは明らかに日本が先である。尖閣諸島周辺の海域に石油などの天然資源があると指摘された70年代まで、中国はまったく異議を申し立てしてこなかったのも事実だ。先に述べた『群星』に、この証言文書が載ったのも1971年のこと。となると、国連による資源埋蔵の可能性が明らかにされた報告書の時期との奇妙な符合を感じてしまう。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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