新型コロナウイルス問題で1年が終わった令和2年~日本の危機管理体制と「災害の日常化」(後)
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拓殖大学大学院地方政治行政研究科特任教授
防災教育研究センター長 濱口 和久(3)防災省(危機管理庁)の創設を
防災省の創設が叫ばれて久しい。全国知事会なども政府に対して防災省の創設を提言しているが、いまだに実現していない。現在、防災分野は各省庁で行われている。災害が多発している事態を考えれば、防災分野を一元的に管理・運用する組織が必要だ。新型コロナのような感染症や複合災害にも対応できるオールハザード型の防災体制の構築にもつながる。
一方で、自衛隊の災害派遣時の支援内容については検討すべきではないか。昨年の台風15号(令和元年房総半島台風)では、千葉県や神奈川県を中心に1,000本以上の電柱が破損し、木の枝などが電線に絡みあい、これらを取り除く作業に自衛隊は従事した。さらに住宅の屋根が暴風で飛ばされたため、ブルーシートで覆う作業にも駆り出された。これらの民間でも十分に対応できるようなことまで自衛隊が行うべきなのか。自衛隊は「何でも屋」ではないはずだ。自衛隊の第1の任務は「国防」であることを忘れてはならない。
寺田寅彦が1934年11月、雑誌『経済往来』に寄稿した「天災と国防」につぎのような記述がある。
「日本は、(中略)気象学的地球物理学的にも極めて特殊な環境の支配を受けているために、その結果として特殊な天変地異に絶えず脅かされなければならない運命のもとにおかれていることを1日も忘れてはならいはずである。日本のような特殊な天然の敵を四面に控えた国では、もう1つ科学的国防の常備軍を設け、日常の研究と訓練によって非常時に備えるのが当然ではないかと思われる」。
寺田が述べている科学的国防の常備軍とは「民間防衛」の組織を意味している。日本も全国民参加型組織を、防災省の創設と合わせて考えるべき時代にきている。
(4)最後に
ここ数年、台風の接近や大雨が降る恐れがある場合に、気象庁の担当官が「50年に1度のこれまでに経験したことのない大雨が降り、甚大な被害が起きる恐れがあります。命を守る行動を取ってください」という表現をよく使う。「50年に1度のこれまでに経験したことのない大雨」ということは、人間が生きている間に経験するかしないかの大雨のはずである。
ところが、ここ数年は、立て続けに50年に1度のこれまでに経験したことのない大雨が降り、甚大な被害が起きていることは周知の通りだ。風水害だけにとどまらない。2016年には熊本地震、18年には大阪北部地震や北海道胆振東部地震などの地震災害も起きている。日本列島は「災害の百貨店」という状態だ。
また、災害が起きるたびに、被害に遭った住民からは「長年ここに住んでいるが、こんな災害が起きるとは思っていなかった・・・」という発言を聞く。日本人の平均寿命が延びたとはいえ、日本人の多くが80歳ぐらいで亡くなる。自然界にとっては、80年というのは僅かな時間だ。自然界が引き起こす災害の間隔を、人間の生きている時間の物差しで考えるべきではない。
「天災(災害)は忘れたころにやってくる」という警句があるが、「天災は忘れる前にやってくる」のほうが、より正確に、ここ数年の日本の置かれた状態を表しているのではないか。まさに「災害の日常化」の時代に突入しているということを、日本人は認識すべきである。
(了)
<プロフィール>
濱口和久(はまぐち・かずひさ)
1968年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒。日本大学大学院総合社会情報研究科修了。防衛庁陸上自衛隊、日本政策研究センター研究員、栃木市首席政策監、テイケイ(株)常務取締役、(一財)防災教育推進協会常務理事・事務局長などを経て、拓殖大学大学院地方政治行政研究科特任教授・防災教育研究センター長を務める。関連記事
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