コロナとニューヨーク~大都会の田舎市場(前)
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大嶋 田菜(ニューヨーク在住フリージャーナリスト)
雨に濡れたリビングルームの窓から、毎週土曜日に開催される市場が見える。その隣にあるカトリック系の学校の駐車場では、ニューヨーク州の北の田舎からさまざまな人が新鮮な食べ物を朝早くから運んできて売り出している。
マーケットに並ぶ食品の種類は、季節によって、まるで景色のように移り変わっていく。今の時期は、りんご、かぼちゃ、手づくりのアップルパイ、アップルサイダー、パンプキンパイ、ジャガイモ、キャベツ、人参、ケールなどで、いずれもきれいに並んでいる。
リビングルームの窓からそれらを見ただけでは、ところどころに真赤なものがあり、青野菜のようなものが列をなして揃っているようにしか見えない。しかし、実際に市場に行くと、想像していたよりもはるかに種類が多く、手づくりのオーガニック・チーズ、パン、黒パン、ライ麦パン、ベーコン、ジャム、メープルシロップなどがあり、小さくて豊かな自然食品市場である。
ニューヨーク市内には、ファーマーズ・マーケットと呼ばれるこのような市場が130カ所もあり、大変な人気だ。加えて、コロナ・パンデミックの今は、狭くて息苦しいスーパーより道端にあるこのような市場が魅力的に映って当然だ。
一方、屋外の市場でも、パンデミックのために一度に入場を許される人数は限られており、とても長い行列ができる。規則通り、人と人の間に1mの距離をおかなくてはならないためだ。市場は、雨や雪が降っても吹雪ではない限り、入場に時間がかかっても毎土曜日に賑わう。
2カ月ほど前、窓の外から土曜の朝の静けさを破る騒ぎ声が聞こえ、その直後に歓声や自動車のクラクションがリビングルームまで響いてきた。何があったのかと見ると、市場のお客が喜んで拍手しており、列を並んで入場を待っている人々も大声で叫んでいる。周りのビルの窓からも頭を出して拍手をしている人々が見えた。
刻一刻と周囲が賑やかになって、大通りを横切る自動車もクラクションを鳴らしている。何かのお祝いに違いないと考えた途端、その4日前に大統領選挙があったことを思い出し、その結果が出て、きっとバイデン氏が勝ったのだろうと考えた。
(つづく)
<プロフィール>
大嶋 田菜(おおしま・たな)
神奈川県生まれ。スペイン・コンプレテンセ大学社会学部ジャーナリズム専攻卒業。スペイン・エル・ムンド紙(社内賞2度受賞)、東京・共同通信社記者を経てアメリカに渡り、パーソンズ・スクールオブデザイン・イラスト部門卒業。現在、フリーのジャーナリストおよびイラストレーターとしてニューヨークで活動。関連キーワード
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