新型コロナが「石油が座礁資産になる日」を早めた!(3)
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名古屋市立大学 特任教授 岡本 博之 氏
2020年4月20日、ニューヨーク原油市場の指標となる「WTI」5月物の先物価格が史上初のマイナス37.63ドルに大暴落し、市場関係者を震撼させた。しかし、それはこれから始まる大変動の序章に過ぎなかった。英国石油大手のBPは同年9月発表のレポートで、「石油に対する世界の需要はここ数年でピークに達し、コロナ禍で減った消費は回復しない」と分析している。石油が座礁資産になる日が現実になりつつある。名古屋市立大学の岡本博之特任教授に聞いた。
米国のパリ協定復帰で、地球環境の世界世論形成が可能に
――「シェールオイル」の帰趨はどうなるのでしょうか。2021年1月にバイデン大統領が就任、直後にアメリカは「パリ協定」(COP21)に復帰します。
岡本 バイデン氏は穏健主義者で絶対的なシェールオイルの反対論者ではありませんが、国有地(国立公園など)におけるシェールオイルの開発には反対を唱えています。また、バイデン氏は根っからの環境論者ではないのですが、民主党左派にはサンダース議員などを代表とする強硬な「シェールオイル」反対論者が存在します。今回の大統領選における環境対策・提言にも、彼らの意見が色濃く反映されています。今後も、彼らの意見を取り入れたうえで、政策がつくられていくものと思われます。
アメリカの「パリ協定」復帰は歓迎されるべきことだと思います。石油需要の世界シェアの約20%を占めるアメリカが参加しなくては、パリ協定はまったく意味をなさないからです。これで、世界最大のエネルギー大国のアメリカを含めて、地球環境に対する世界世論の形成が可能になります。
バイデン氏の気候変動対策
- 「パリ協定」に復帰し、環境を重視する政策を指向する。2050年のネットゼロに向け、再生可能エネルギーを推進してエネルギー構成を改める。
- 4年間で2兆ドルの予算により、グリーンエネルギー政策を実施する。電気自動車、再エネを促進する。
- アメリカ合衆国の連邦公有地における石油・ガス採掘のリース禁止を提案する。
ヨーロッパ系石油会社はパリ協定を順守、脱炭素社会へ
――石油が「座礁資産」になる可能性について石油会社(世界のBIG5社)はどのような対策を考えていますか。
岡本 石油のBIG5社とは、BP(イギリス)、シェル(イギリス・オランダ)、トタル(フランス)、エクソン(アメリカ)、シェブロン(アメリカ)のことを言います。そして、その対策は欧州系3社と米国の2社で大きく違います。
欧州系のBPは「向こう30年間で石油需要はほぼ半減する」とのシナリオを提示し、同社の石油ガス生産量を2030年までに40%削減する計画を発表しています。EU自体も世界の石油は「まもなく枯渇していく」と考えています。従って、「パリ協定」を順守し、石油から脱皮していかなければならないと考え、具体的な動きを開始しています。
BPの長期戦略
- 「国際石油会社」(International Oil Company)から「統合エネルギー企業」
- (Integrated Energy Company)にイメージチェンジする。
- 「ネットゼロ排出会社」を目指し、2020年のリストラコストは約15億ドルを計上、バーナード・ルーニーCEOは「新型コロナがグリーンエネルギー時代に備える緊急性をもたらした」と発言。
- 2019年対比で低炭素テクノロジーへの投資を10倍に、再エネ発電を20倍にし、石油ガス開発への投資を40%削減すると発表。ノルウェーの国営石油会社「エクイノール」から米国海上風力発電事業の50%の権益を11億ドルで買収することに同意。計画では、事業運営からの排出ガスを最大3分の1削減し、再エネ発電、水素およびCCUS(「二酸化炭素回収・貯留」した二酸化炭素を利用する技術)への投資を行う。
- 石油ガス事業は減少させる方針だが、向こう数年間は石油開発部門へ年間140~160億ドルの資本投資を継続する。
シェル長期戦略
- 2019年に自信をもって、「エネルギー移行」に挑む戦略を発表した。
- 他社に先駆け「排出ガス目標」を具体的に示し、低炭素技術に投資を拡大する一方、向こう数年間で1,250億ドルを株主に還元すると約束した。
- 年間25億ドルのコスト削減を目指し、8万3,000人の従業員のうち、9,000人の人員整理を発表、「プロジェクト・リシェイプ」と名付けた組織改革の一端を見せた。米シェールオイル事業ではすでに40%のコスト削減を実行しており、すべての事業で同じことを行おうとしている。
- 保有する15カ所の製油所のうち、少なくとも5カ所は売却する方針である。
アメリカ系は今後もシェールオイルを買収、油田開発も
――アメリカ系企業はどのような方向へ進もうとしているのですか。
岡本 一方、米国のエクソンも「エネルギー移行」を実現し、同社として排出ガス問題に立ち向かうべきとの認識は一致しています。しかし、世界経済にとっての石油の重要性は維持され、2019年の石油需要1億BD(バレル/日)は、2040年には1.11億BDになるとみています。
そのため、エクソンは向こう4年間で33%の増産を図る計画です。また、たとえ「パリ協定」の目的達成のために、諸政策が採用されたとしても、自然減退する石油ガスを一定程度の水準に保つためには巨額の新規投資が必要であるとみています(国際エネルギー機関・IEAは2040年までに13兆ドルの新規投資が必要との見方を示している)。今後もシェールオイルなどの会社を買収、新たな油田を開発して株主の要求に応える会社経営をしていこうと考えています。
エクソンのCEO(最高経営責任者)のダレン・ウッズ氏は、2020年12月に社員宛に以下のようなメッセージを送りました。
「コロナにより、需要が劇的に落ち込み、さらに気候変動によりエネルギー移行が進むと見る向きもあるが、当分の間は、エネルギー需要は増加し続けるので、石油ガスの重要性は続くと我々はみている」。
(つづく)
【金木 亮憲】
<PROFILE>
岡本 博之氏(おかもと・ひろゆき)
山口県萩市出身。1965年、千葉大学文理学部卒業後、シェル石油(株)入社。BP Far East Ltd.社、BPロンドン本社、BPジャパン(株)を経て、99年に日本大学国際関係学部助教授に就任、その後教授に。コロンビア大学日本経済経営研究所客員研究員、日本大学大学院教授を経て2013年より名古屋市立大学(22世紀研究所)特任教授。
専攻は国際経営論、資源エネルギー論。ワシントン州立大学経営学修士課程でMBA取得(1976年)、博士・国際関係(2007年)。国際経営文化学会副会長、日本ビジネスインテリジェンス協会常務理事、同協会エネルギー研究部会会長。関連キーワード
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