2024年12月22日( 日 )

【福岡県に緊急事態宣言】(10)コロナが触媒になる流通の転換

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コロナ禍の影響を受けないスーパー、ドラッグストア

 多くの小売業はバブル崩壊以降、規模の大小を問わず売上不振に見舞われ、それが今もなお続いている。それに拍車をかけたのが、新型コロナだ。飲食・旅行業界だけでなく、幅広い業界がその対策に頭を悩ます。終息が見えないまま社会的行動の制限が長引くと、ますます深刻な事態に陥ってしまう。

 コロナ禍で多くの業界が苦しむなか、その影響がほとんど見られないのが、スーパーマーケットやドラグストアだ。これらの店舗は消費者の身近にあり、利用頻度も高い。出かけるのを控えろと言われれば、自然と行動範囲は小さくなる。遠くの大型商業施設に出かける機会は減り、衣料品や化粧品への支出も小さくなる。外食の制限によって内食が増え、家庭で調理する食材への支出が増加する。スーパーマーケットやドラグストアにとってコロナ禍はある意味追い風だ。

 このため、外食をはじめとする多くのサービス業や小売業が苦戦するなか、スーパーマーケットやドラッグストアはほとんど影響を受けておらず、むしろ業績は好調だ。好調の背景にはもう1つほかの理由がある。それは販売促進の抑制だ。

 社会的行動の抑制に合わせて、小売各社はチラシの配布を減らした。チラシといえば価格訴求。チラシ品は通常、利益率よりも経費率が上回る。いわば利益なき繁忙だ。チラシに掲載された商品は、同じ客が何回も並んで買うことも少なくない。同じ客であっても、レジに並んだ回数が客数にカウントされる。それがなくなると客数が減少する一方で、売上が伸びるという奇妙な結果が生まれる。これは利益率の向上にもつながる。

 上の表は売上が10%伸びたと仮定した決算数値である。小売業の経費はその大部分が固定費であるが、売上が伸びるケースのBは、Aよりも5%経費が伸びたと仮定。しかし、売上が伸びることによって、経費が増えたにもかかわらず、経費率は1%程度低下する。安売りの頻度が低下すれば、当然、粗利率が向上するから、Bの数値はより良いものになる。売上の改善がいかに経営数値の改善に寄与するのかがよくわかるはずだ。

 かつて、ダイエーの創業者が、売上は全てを癒すと言ったのはまさに至言だ。四半世紀前までは、一定面積当たりの売上をいかに小さくするかが某有力コンサルタントの持論で、有力小売業がこぞって店舗面積の拡大に走った。ダイエーはその典型だった。だが、それが進行するにともない、大型小売業の不振が際立つようになった。

 スーパーマーケットもその例にもれず、店舗の大型化にともない採算性が悪化した。言い換えると、一定面積当たりの売上の絶対額がその経営数値に大きく影響するということである。店舗の大型化は、従業員の移動距離が大きくなる。移動は直接生産の効率低下でもあるから、人員削減でそれをカバーすることになる。人が少なくなるほど顧客サービスは低下するから、売り場には客の不満があふれ出す。そのような状況で売上の改善は望めない。そして、売上の不振が我が国の多くの大型小売業を市場から消し去った。

コロナ後の流通業の行方

 ところでポストコロナの流通業だが、アマゾンのホールフーズ買収をきっかけに、ウォルマートをはじめとするアメリカのスーパーマーケット企業が一斉にオンライン宅配の強化にシフトした。宅外の競合激化である。競争が激しくなれば、手法が進化することは歴史が証明している。進化の競争が極まると、優勝劣敗がよりはっきりする。競争に負ければ市場からの撤退しかない。

 スーパーマーケットに先立って、そんな構図が世界中で広がっている。企業規模に関係なく、オンラインに押されたリアル店舗の閉鎖だ。リアル店舗の閉鎖は大量の店舗をショッピンセンターへ出店する企業の倒産につながる。一方、ショッピングセンターの閉鎖はオンラインリテーリングにとって追い風だ。この流れは我が国でも同じ。アメリカの流れは10年経って日本にやってくるといわれるが、グローバリズムが亢進する現代では、そんな悠長な流れではない。

 現にイオンやその他の大手小売業が同業態だけでなく、オンラインやM&Aへの投資を積極的に進めている。

 かつてペストをはじめとする感染症で多くの働き手を失ったヨーロッパでは、印刷や蒸気機関などの技術革新に後押しされ、それまでとは全く違う産業の革命を見た。感染症と技術革新が世の中を変えてしまったのである。

 コロナ禍は、インターネットやAIのさらなる発展の背中を押すはずである。競争が厳しくなるほど、それを利用するための利便度が進化して、特殊な世界が一般化する。今や1本数億円のスカッドミサイルの代わりを数十万円のドローンがはたす時代である。

 さらに、この変化の行き着く先では、持てるものと持たざる者の格差が一段と極まるというのが一般的な見方である。コロナ禍が去っても、かつての一億総中流といったまったりした世の中がやってくることはないだろう。現在、業績好調のスーパーマーケットやドラグストアもいつまでブルーオーシャンかは誰にもわからない。

【神戸 彲】

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