自動運転、事故の責任は誰が負う? メーカーか、運転手か、それともAIか
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自動運転は、4月に「レベル3(条件付き運転自動化)」が解禁され、ホンダが高速道路での自動運転機能を搭載した乗用車を近く発売する予定で、ついに実用化されることになった。もし、自動運転で事故が起きたときに責任を負うのは、メーカーか、運転手か、それともAIか。自動運転の法制度上の課題と自動車保険の行方を追った。
実用化される自動運転
ホンダの自動運転車の発売が2020年度に予定され、いよいよ実用化される自動運転「レベル3」。事故時にはドライバーの責任となるこれまでの自動運転車(レベル1、2)とは異なり、高速道路で時速60km以下の渋滞時に完全自動運転が可能となる。ドライバーがいない完全自動運転「レベル4、5」が将来的に視野に入るなか、事故が起きたときの責任はどうなるのか。
自動運転「レベル3」では、ドライバーの運転中の事故は自身の責任となるが、問題は(1)完全自動運転中、(2)自動運転中に異常があり、自動運転からドライバーの手動運転に切り替わるときである。
AI分野に携わり、自動運転に注目する花水木法律事務所所長の小林正啓弁護士は、「今の法律では、(1)は完全自動運転のレベル4、5と同じ『ドライバーがいない』ことが前提となるため、ドライバーは責任を負わない」と話す。法律上、自動運転AIシステムに欠陥があった場合は、メーカーが製造物責任(PL法、民事責任)を問われる。自動運転AIシステムに欠陥があるとわかっていながら、適切な措置を取らずに販売した場合は、メーカーの社長や担当者が刑事責任に問われる可能性がある。しかし、小林弁護士は「通常は正しく作動するAIが偶然に間違えた、実験しても故障が再現されないなど、事故の被害者はAIに欠陥があると証明するのが非常に難しいため、裁判で負ける可能性が高い」と指摘する。
そのため、自動運転の事故時には、自動車の持ち主が民事責任を負い、自賠責保険(死亡限度額3,000万円、強制加入)を上限に賠償することが見込まれるという。ただし、「任意保険は自動運転の対象外となるため、自動運転車事故の被害者は人が運転する車よりも保険金の支払額が少なくなる」(小林弁護士)。
(2)について、小林弁護士は「ドライバーがすぐに運転を代わらず事故が起きた場合に、自動運転システムかドライバーのいずれの責任かという法律の議論はなされていない。基本的には、ドライバーが責任を負う結論となる可能性がある」という。運転手は運転から解放されるが、異常事態に備え、前を見ずに居眠りやスマホ操作に没頭したりできないということだ。またレベル3では、普通の車と同様の飲酒運転の罰則もある。
自動車保険の行方
自動車事故の9割は人為的ミスによるという見方もあり、自動運転車の実用化で事故数が減少する可能性が見込まれている。しかし、絶対に間違いを起こさないAIをつくるのはほぼ不可能だ。小林弁護士は「今の法律では、メーカーがAIの欠陥時に責任を負うが、この状況では完全自動運転車『レベル4、5』の開発、製造が進まなくなる。そのため、たとえば車の免許制度のような安全基準を設け、その基準に合格すればメーカーは刑事・民事責任が問われないなど、制度の変更が必要となるだろう。事故時の責任の所在や被害者の扱いを含め、法律を改正しなければ実用化できない」と話す。
東京海上日動火災保険(株)は、自動運転レベル3で任意保険の保険料を変えずに保険金を支払うと発表。小林弁護士は「レベル3は時速60km以下の高速道路の渋滞時のみのため、大きな事故は少なく、自賠責の限度内で収まる可能性が高いと予想される。しかし、本格的な自動運転『レベル4、5』では、自賠責保険以外に上限なしの無条件・全額で被害者を救済できる保険が必要となる」とみている。
車は輸出産業のため、信号機のように、自動運転に関する世界共通のルールができるだろう。車や工業製品などの国際競争の世界では、国際標準規格ISOをつくった欧米が長期にわたりリードしてきたように、ルールを決めた国が主導権を握る。自国に有利な制度をつくることができるためだ。自動運転の国際法制度で日本がイニシアチブを取れるかどうかが、自国の自動車産業の行く末を大きく左右すると言っても過言ではない。
【石井 ゆかり】
<PROFILE>
小林 正啓(こばやし・まさひろ)
花水木法律事務所所長・弁護士。1962年生まれ、青森県出身。東北大学法学部卒。次世代ロボットの安全性、監視カメラとプライバシー問題、AIの倫理・法律・社会問題に取り組む。情報通信研究機構パーソナルデータ取扱研究開発業務審議委員会アドバイザー、総務省情報通信政策研究所AIネットワーク社会推進会議「開発原則分科会」構成員をはじめ、ロボット革命イニシアチブWGコアメンバー、JST(CREST)領域アドバイザー、経産省・総務省IoT推進コンソーシアムのカメラ画像利活用SWG委員などを務める。2018年度大阪弁護士会副会関連記事
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