2024年12月25日( 水 )

山村の過疎化地域で「小水力発電」~消滅の危機に瀕する山間地産業が復活(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 都市への人口集中が高まっている。江戸時代までは農山漁村の人口が都市の人口に比べて10倍も多かったが、今では農漁村人口が約4,000万人、都市人口が約8,000万人と圧倒的に都市部のほうが多い。山村の過疎化が進んでいるのは、人がその土地に住むために欠かせない木材や薪炭など山から里への流れを生む「山村の産業」が成り立たなくなっているためだ。

戦前は日本で主力だった小水力発電、欧州がなぜシェア首位に?

(一社)小水力開発支援協会代表理事 中島 大 氏
(一社)小水力開発支援協会代表理事 
中島 大 氏

 第二次世界大戦以前の日本では、都市部への電力供給のために巨大ダムが建設されると同時に、全国の農村部では村役場や住民有志が資金を集めて建設した小水力発電が普及していた。しかし、第二次世界大戦で発電所や電気事業は国策会社の日本発送電に統合され、敗戦後も各地の自治体に小水力発電所が戻されることはなく、全国の9つの電力会社に再編された。

 中島氏は「戦後は全国で送電網が整備されたため、ダムなどの巨大水力発電や火力発電などの電力を山村に送るほうが大電力会社にとってコスト減となるため、小水力発電所はコストパフォーマンスが悪いとされ、ほぼ廃止されてしまった。FIT制度が導入されて以来、小水力発電所のもつ可能性が半世紀ぶりに見直されるようになり、条件さえ整えば、小水力発電は全国に普及する可能性がある」と強調する。

 戦前に日本のように小水力発電所が普及したドイツやイタリアなどヨーロッパでは、戦後も小水力発電所が統合されず、村営の発電所も維持、活用されている。そのため、新設や設備更新などの需要で小水力発電市場が保たれ、技術も進歩して品質も良くなり、製造コストが低めに抑えられているという。

豪雨災害で計画見直しも

 日本の小水力発電の開発可能な場所は、全国で数千カ所(合計出力100万kW)と考えられている。国内電力消費量の1%にも届かないが、水力発電に適した山間地域の生活需要はこれらでほぼ満たされるという。自治体の出資や防災計画などに位置付ける(地域一体型)ことで、22年度以降もFITを利用して採算を立てられる。「小水力発電の総経費は土木工事が約7割、電気工事が約2割。いかに土木工事費をかけずに建設できる場所を見つけられるかが、事業化のカギとなる」(中島氏)。50kW以下の小規模発電では採算が厳しいが、条件やコストを工夫することによる成功例もある。

 中島氏は「日本は河川が多く土地の高低差もあるため、小水力発電を導入できる地域が多いが、小水力発電特有の土木技術や発電のノウハウが必要だ。土地改良区など農業関連の団体が行うケースも多く、異業種が新規参入しにくい分野ではあるが、建設業や電気整備、インフラ企業など異業種から参入し発電所の建設を成功させている事例もあり、やればできることも事実だ」という。

石徹白近辺の風景
石徹白近辺の風景

 岐阜県の石徹白地区では、Iターンの平野彰秀氏がリーダーシップを取って地域の消費電力に見合う発電所をつくることを目指し、地元主導で14年に発電目的の農協(JA)を設立し、発電所を建設した。加えて、集会所を利用して不定期に開催するカフェ、Iターン向けの空き家紹介など、地域住民全員が参加できて、コミュニケーションを取り交流を増やす取り組みを開始。1950年ごろには約1,200人だった人口が約270人となり、過疎化が進んできた石徹白地区は、経済循環が活発になり、特産品の販売も需要が高まった。今では石徹白を訪れる人々も増え、移住した若者やその子どもが増えているという。

 また、熊本県小水力利用推進協議会では、県が主催する「熊本県小水力発電研究会」を開き、県内企業や企業家などを中心に水力発電事業を目指している。発電所計画をオープンにすることで、県内企業が主導権をもち、自治体や地域関係者が参加して地元の希望が反映される事業計画を立てている。

 小水力発電は河川の水を使う「水利権」の取得がハードルとなりがちであり、上下水道や農業用水に影響が出るため、地域の水利用を計画段階で考えることも欠かせない。また、自然の川は普段は安定して発電できるが、落ち葉が溜まると思ったほど発電できなくなったり、豪雨や台風などで土砂やごみが取水口につまったりするため、これらに対処できるノウハウも必要となる。一方、近年は災害が多発しており、豪雨などで予想外の被害を受けて着工をあきらめるケースも出ているという。

 中島氏は「山間地の過疎化や高齢化は、地道な努力を重ねることで少しずつ解決する可能性がある。経済や人の流れが活性化すれば、新しく若い人が移住してくる可能性も高まる。地域の資源を生かす小水力発電が、地域社会が持続する力を生み出すきっかけになってほしい」と語る。

(了)


<プロフィール>
中島 大
(なかじま・まさる)
 全国小水力利用推進協議会事務局長、(一社)小水力開発支援協会代表理事。1961年生まれ、東京都出身。85年東京大学理学物理学科卒。85年から(財)ふるさと情報センター勤務、92年から(株)ヴァイアブルテクノロジー取締役。2005年に小水力利用推進協議会設立、事務局長を務める。09年に小水力開発支援協会設立、10年から代表理事。著書は『小水力発電が地域を救う』(東洋経済新報社)など。

(前)

関連記事