2024年11月14日( 木 )

2020年企業倒産・休廃業の動向と今後の見通し~コロナ支援策の限界を打ち破れ(1)

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九州大学非常勤講師・フリーライター 辻部 亮子 氏

 日本国内初の新型コロナウイルス感染者が確認されてから、1月16日で丸一年を迎えた。緊急事態宣言にともなう外出自粛要請などを受けて、人々の消費行動は著しく減衰、サプライチェーンの混乱もあり、企業業績はみるみる悪化した一年であった。

手厚い資金繰り支援策が奏功、企業倒産は記録的低水準

 IMF(国際通貨基金)が昨年10月に発表した予測によれば、日本の2020年のGDP(実質国内総生産)は19年比でマイナス5.3%。約29兆円が失われた計算になるといわれる(※1)。総務省から1月22日に発表された20年の消費者物価指数(変動の大きい生鮮食品を除く総合指数)は前年比マイナス0.2%となる101.5で、8月から5カ月連続で下落。とくに12月は前年同月比1.0%マイナスという10年3カ月ぶりの下げ幅を記録し、日本経済は再びデフレ・スパイラルに足を踏み入れた感がある(※1)。

 ところが、こうした経済活動の収縮にもかかわらず、20年の企業倒産は記録的な低水準であったことがこのたび報じられ、話題になっている。その一方で、休廃業・解散は記録的な高水準で推移したということも。この現象は一体何を示唆するものか。そして、それは今年、各企業にどのような道を選ばせることになるのか。これまでに公表されたデータやニュースを基に考えてみたい。

 東京商工リサーチが1月13日に発表した20年の全国企業倒産集計(※2)によれば、20年に全国で倒産した企業は前年比7.2%減となる7,773件。8,000件を下回ったのは実に30年ぶりで、1971年以降の50年間ではバブル期の89年(7,234件)につぐ4番目の低水準という。負債総額も同14.2%減、71年(7,125億5,400万円)につぐ4番目の低い水準となる1兆2,200億円であった。帝国データバンクも同日、ほぼ同様の集計結果を公表している(※3)。すなわち、倒産件数は同6.5%減、2000年以降で2番目の低水準となる7,809件。負債総額も同16.4%減の1兆1,810億円で、2000年以降で最小を記録したとのこと。

 コロナ禍による経済活動の縮小にもかかわらず、企業倒産がこのように大きく抑制されたことについて、帝国データバンクも東京商工リサーチも、官民一体となって打ち出された各種コロナ関連支援策が功を奏したと評価している。

 実際、インバウンドの急減や営業自粛などにより深刻な打撃を受ける中小企業や個人事業者に対する支援には、至れり尽くせりの感があった。「持続化給付金」「家賃支援給付金」などの給付金をはじめ、「雇用調整助成金」特例措置の拡大、税金・社会保険料・公共料金の支払猶予や減免措置。なにより、企業の資金繰りを支援するための官民の金融機関による実質無利子・無担保融資制度(日本政策金融公庫による「新型コロナウイルス感染症特別貸付」「新型コロナウイルス対策マル経融資」、商工中金による「危機対応融資」、民間金融機関の「危機関連保証」など)と、金融債務の返済繰延・借入条件変更支援(「新型コロナ特例リスケジュール」)。このように「財政、金融、税制を総動員して思い切った措置」(安倍晋三総理(当時)、20 年4月1日参議院決算委員会)が講じられ、「事業の継続を支え、再起の糧としていただくため」(経産省)の多彩な支援メニューが、経営者たちに幅広く提供されたのだった。

 実際、多くの経営者がこれを利用した。持続化給付金を利用した事業者は1月18日時点で407万件。総額5.3兆円が支払われた(※4)。また、東京商工リサーチのアンケート調査(1月5日~14日実施、1月22日公表)(※5)によれば、5割強の企業が民間金融機関の実質無利子・無担保融資(信用保証付き)を、3分の1強が政府系金融機関のそれを利用していた。日銀もこのたび、資金需要の強さを示すDI指数が、20年10〜12月期には9年半ぶりの低水準となるマイナス5をマークしたと報告(※6)しており、官民の金融機関による潤沢な融資が多くの企業の手元資金の確保に大きく貢献したことを物語る。

(つづく)

※1:20年の消費者物価 4年ぶり下落 0.2%、コロナ禍響く(日本経済新聞)
※2:2020年(令和2年)の全国企業倒産7,773件(東京商工リサーチ)
※3:2020年報 2020年(令和2年) 1月1日~12月31日
※4:オカンにばれたコロナ給付金詐欺 19歳が自首するまで(朝日新聞)
※5:第12回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査(東京商工リサーチ)
※6:企業の資金需要が一服、9年半ぶり低水準 日銀調査(日本経済新聞)

 

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