2024年11月14日( 木 )

2020年企業倒産・休廃業の動向と今後の見通し~コロナ支援策の限界を打ち破れ(4)

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九州大学非常勤講師・フリーライター 辻部 亮子 氏

 日本国内初の新型コロナウイルス感染者が確認されてから、1月16日で丸一年を迎えた。緊急事態宣言にともなう外出自粛要請などを受けて、人々の消費行動は著しく減衰、サプライチェーンの混乱もあり、企業業績はみるみる悪化した一年であった。

八方塞がりの現状打開へ思い切った発想の転換を

 「倒産や廃業が急拡大すれば、失業者が急増し、社会不安が増幅する危険があるほか、中長期的な視点で見れば、日本経済の国際競争力のいっそうの低下を引きおこす」(『経済のプリズム』No190,2020.9, p.39)。そして、今のところ、そのシナリオにますます現実味を与える材料ばかりというほかない。

 大晦日に東京都の新規感染者が1,000人を突破したことを受け、これ以上の感染拡大を食い止めるための緊急事態宣言の再発令だったが、全国の新規感染者は1月9日に7,788人に上り、1月24日まで連日5,000人を超えるなど、感染拡大の勢いは止まらない。その上、新型コロナによる国内の死者が1月9日に4,000人に達した後、わずか2週間で1,000人増える(※16)など、死者の増加ペースが速いのも第3波の特徴だ。

 感染力も致死率も高いという英国型変異株(※17)の国内拡大の兆しもあり、「緊急事態宣言は期間が2度延長され、解除の条件が整う3月末までは規制が続く可能性」(酒井才介氏・みずほ総合研究所)(※18)も取りざたされている。

 頼みの綱のワクチンも、このたび、政府の接種スケジュール策定に遅れが生じていることが露呈した(※19)。そのうえ、一般接種が開始された国から次々入る「副反応」の報は、人々の間にあるワクチン忌避の傾向を後押しし(※20)、オリンピック景気は夢と消えたばかりか、企業によってはリスクと化している。こうして人々の行動および消費が今後ますます抑制されることが予測されるなか、さらなる収益減により資金繰りが再び逼迫する企業が激増することは明らかだ。

 とはいえ、多くの企業が貸付中心の支援策により、すでに過剰債務の状態となっている。返済のメドも立たないまま、赤字を埋めるためだけに借り入れた資金を切り崩していけば、破綻がほどなく訪れよう。

 今回の緊急事態宣言で「感染リスクの高い業態」として狙い撃ちに遭った飲食店は、1日6万円の時短協力金で急場をしのぐことができるかもしれない。だがこの措置も、立地や規模、業態によっては諸経費をとうてい賄えるものではない。時短に協力せず営業を選ぼうにも、今度は罰則規定を盛り込んだ特措法改正の動き(※21)が、経営者たちを追い詰める。

 持続化給付金は、申請期限が2月15日まで延長されたとはいえ、利用は1回限り。20年12月8日に新設が閣議決定された「事業再構築補助金」制度(※22)も、業務転換や再編を目的とした投資に最大1億円を補助するもので、見方によっては従来型ビジネスの「切り捨て」とも取れる内容だ。そのうえ、高齢の経営者に「廃業」を促すかのような、4年ぶりの年金支給額減額決定(※23)。こうして今、経営者の眼前には、赤字累積による破綻か、「あきらめ型」休廃業(東京商工リサーチ)かの選択肢しかない。

 早急に手を打たねばならないが、これまでのような貸付メインの支援策では、経営者が債務返済のために本業の改善努力を放棄し、資金を株式投資に振り向けるような動き(昨年11月ごろから進行している実体経済と乖離した不気味なまでの株高は、それをよく表しているはずだ)を助長するだけだろう。これは悪質なバブルを引き起こし、遅かれ早かれ崩壊が訪れる。

 感染拡大を止めながら経済を回していくためには、どうしても公的支援が必要であるわけだが、その際、事業者に資金を供給し、後は事業者の努力に任せるという姿勢では限界があることが浮き彫りになったわけである。

 今、それも早急に必要とされるのは、企業の存続を引き続きサポートしつつ、「個人消費を減らさないこと」に照準を絞った支援策であるだろう。たとえば雇用調整助成金のさらなる拡大、各種税金や公共料金の一時凍結あるいは大幅減額などに期待したいところだ。財源の問題は、まずは「中抜き」をなくすだけでも、ある程度解決への道が開けると思われる。

 何より期待したいのは、地方のイニシアティブである。中央集権型の画一的な支援策だけではもはや立ち行かないことが明らかになりつつある今、求められているのは、地域のニーズや産業特性に応じたきめ細やかな支援であり、それは地方行政と企業との連携を通じてしかなし得まい。

 コロナ禍で若者たちが地元志向を強めている今、各企業は彼らを呼び込み、そのポテンシャルをうまく引き出す工夫を凝らしてはどうか。この受難のときを生き延びるためだけでなく、若く柔軟な発想を取り入れることで、ポストコロナの時代を切り開くために。

(了)

※16:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021012300398&g=soc
※17:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14775208.html
※18:https://diamond.jp/articles/-/259936
※19:https://digital.asahi.com/articles/ASP1V6JQ9P1VULFA00Q.html
※20:https://www.jiji.com/jc/article?k=2020122600032&g=spo, 
※21:https://toyokeizai.net/articles/-/407536
※22:https://www.meti.go.jp/covid-19/jigyo_saikoutiku/index.html
※23:https://digital.asahi.com/articles/ASP1Q6JBBP1QUTFL006.html

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