2024年11月25日( 月 )

「CO2実質ゼロ」宣言の真意は?~動き出す太陽光、風力の再エネ転換(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
エネルギー戦略研究所(株) 取締役研究所長 山家 公雄 氏

 政府は「2050年CO2実質ゼロ」を宣言し、洋上風力などの再エネ転換にようやく本気で取り組む姿勢を見せたが、その真意は。さらに、太陽光など再エネ発電所の普及に大きな壁となってきた「空き容量ゼロ」(送電線につなげない)問題は、東京電力の調査で99%が空いていると発表されたが、解決に向かうのか。市場の「中立性」には課題が残る。

再エネ宣言の真意

エネルギー戦略研究所(株) 取締役研究所長 山家 公雄 氏
エネルギー戦略研究所(株)
取締役研究所長 山家 公雄 氏

 「『2050年CO2実質ゼロ』宣言で、政府は従来のエネルギー・産業の仕組みを根本から変え、再エネ推進に大きく舵を切る。日本はお上の方針で大きく変わる国民性のため、国の宣言を受けて、太陽光や風力発電など再生可能エネルギーに大きく転換する可能性が高い」と、環境・エネルギー政策に携わるエネルギー戦略研究所(株)取締役研究所長・山家公雄氏は話す。 

 福島第一原発の事故後、安全対策などで原発の新規コストは電力卸価格の約3倍にも上がった。一方、燃料費がゼロのうえに技術の進歩でコストが大幅減となった再エネは、将来的に電力が「超低コスト」になる可能性を秘めている。太陽光発電では驚異的な低価格を実現した事業者も登場した。 

 山家氏は「再エネを大きく増やす方針に『産業政策の色合いを強く感じた』という声が挙がっている。経産省と国交省が、将来の導入目標値の設定、国内産業育成、コスト低下の達成などを共同で目指す目的で『洋上風力官民協議会』を設置したことがその象徴。脱炭素化、再エネ主力化の流れで、世界で原子力や火力発電所関連の投資が激減し、国内メーカーは取引の大幅減に直面している」という。 

 政府はこれまで再エネ政策に本気で取り組んでこなかったため、その普及に大きな筋道を立てられるかの分岐点に立たされている。政策の方針を決める「エネルギー基本計画」では、実質カーボンゼロへの道筋、大胆な再エネ目標設定が不可欠だが、どの発電方法からどれだけの発電量を得るかという比率は市場で決まることであり、本来「計画」は不要のはずだ。原子力~%、石炭~%などの数字を示すと、化石燃料などへの投資を国も認めているとして、エネルギー会社は自身の投資の失敗に責任を負わなくなる可能性もある。

 また、政府はCO2削減のために、「(再エネにとどまらない)あらゆる選択肢」「技術革新」という言葉を使うが、これではもっとも現実的な技術である再エネ普及が進まず、原子力、火力発電が温存される懸念もある。 
 同計画では、再エネを増やすための方策を具体的に示す必要がある。FITなど支援策だけでなく送電線利用の中立、卸取引市場の整備など電力システム改革の早期の完全な実現が不可欠なのだ。 

(つづく) 

【石井 ゆかり】


<プロフィール>
山家 公雄
(やまか・きみお)
 エネルギー戦略研究所(株)取締役研究所長、京都大学大学院経済学研究科特任教授、豊田合成(株)取締役、山形県総合エネルギーアドバイザ――。1956年山形県生まれ。80年東京大学経済学部卒業。日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)に入行し、電力、物流、鉄鋼、食品業界などを担当し、環境・エネルギー部次長、調査部審議役などに就任。政策的、国際的およびプロジェクト的な視点から環境・エネルギー政策を注視し続けてきた。主な著書に、『日本の電力改革・再エネ主力化をどう実現する』『日本の電力ネットワーク改革』『テキサスに学ぶ驚異の電力システム』『送電線空容量ゼロ問題』『「第5次エネルギー基本計画」を読み解く』(インプレスR&D)、『アメリカの電力革命』『日本海風力開発構想―風を使い地域を切り拓く』『再生可能エネルギーの真実』『ドイツエネルギー変革の真実』(エネルギーフォーラム)など。

(中)

関連記事