【ドキュメント】中洲クライシス そして中洲(ここ)で生きていく(前)
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昨年4月に続く2回目の緊急事態宣言発出(1月13日)から半月が過ぎた2月2日、菅政権は宣言の期間を1カ月延長することを決めた。その一方、与党政治家の銀座クラブ通いが発覚して議員辞職に追い込まれるなど、歓楽街の営業自粛問題は本音とタテマエのはざまで揺れている。感染拡大第3波に見舞われた中洲で生きる人々の声を拾った。
2月3日午後7時40分。中洲4丁目にて
明治通りから中洲中央通りを少し下って横道に逸れるとすぐに、紺色の暖簾がかかる年季の入った風情の店構えが見えてくる。1963(昭和38)年創業、中洲4丁目の『大衆酒蔵 酒一番』は中洲通(つう)のみならず、全国の酔っぱらいの間で「中洲で飲むならここ」と評判が高い。俳人の吉田類さんが各地の人気店を訪問するテレビ番組、『酒場放浪記』(TBS系)で紹介されたこともある。居酒屋というよりは一杯飲み屋といったほうがしっくりくる、その界隈では名の知れた名店だ。
新型コロナウイルスの感染が広がる前、1階のL字カウンターは客同士で肩が触れ合うほど「密」なのが当たり前で、予約が必須なほどに繁盛していた。2月3日(水)の午後6時40分。おそるおそる店をのぞいてみると、店内は意外にも往事とほぼ変わらないくらい人で埋まっていた。1階のカウンターと4畳ほどの座敷、窓際に設えた小さなテーブルもほぼ埋まって大繁盛だ。とはいえ、午後8時のタイムリミットまで1時間とちょっと。陽が落ちると急に冷え込んだこの日、湯豆腐で暖をとることに決めて、とりあえず瓶ビールのつまみに串を数本焼いてもらう。店内を忙し気に動きまわっているのは、創業当時からとは言わないまでもかなり人生経験を積まれただろう、ベテランのお姉さまがた。聞いてみると、今の時期に来ているのは主に長年通いつめた常連で、新規客はほとんどいないという。
午後7時すぎ、「もうすぐラストオーダーです」と声がかかる。慌てて追加の串を注文する横を「じゃあ、また」と言って出ていく客。号令でもかかったかのように三々五々、常連陣が腰を浮かし始めた。酎ハイと黒ホッピーを注文し、ゴールの8時を目指してラストスパート。店と客の見事なコンビネーションで時短営業を乗り切る創業約60年、老舗酒場からの実況中継。締めて3,850円なり。あ、領収書ください。
ミナちゃんの場合~コロナで求職活動も「心折れた」
クライシス(Crisis)という単語は、危機や重大局面という辞書的意味があるほか、語源的には「選別、分岐点」という意味を表すギリシャ語が基になっているという。さしずめ、新型コロナ・クライシスは「選別」を進める大波なのか。
1月13日に発出された2回目の緊急事態宣言は、飲食店やイベント関連事業者に対する支援の手厚さが目立ち、時短に応じた飲食業には1店舗あたり1日6万円(月額最大180万円)の時短営業協力金が支給される。一方、政府は今年に入って、休業要請や入院勧告に応じない場合の罰則導入を検討するなど強硬な感染抑制策を打ち出していた。そんななか、与党政治家の銀座クラブ通いが発覚して国民の不満は爆発。菅政権に対する支持率が急落する事態になっている。
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「政治家も男ですもんね」と、妙に訳知り顔な「ミナちゃん」だが、じつは21歳になったばかり。中洲で働く女性たち専用のヘアサロンと中洲のガールズバーでダブルワークしている。ただし2つとも、中洲というまちが元気に稼働しているのが前提の仕事。したがってコロナ禍で出勤調整が始まって勤務時間を減らされ、今では籍こそあるものの開店休業状態だという。勤務していたガールズバーは急場をしのぐために仕出弁当屋を始め、専属スタッフだった女性たちが路上で販売しているというからダイナミックな業態変更だ。
ミナさんはこれを機会に正社員になろうと、以前から志望していた化粧品販売員の職に応募した。しかし求人が少ないこともあって結果は連戦連敗。途中からは、どうせ受からないと思いながら面接に臨んでいたため、とうとう「心が折れちゃった」(ミナさん)。
県内の私立高校を卒業して2年間、正社員として働いたことはなく、コンビニのアルバイトやスポット的にイベント会社で働くなどして収入を得てきた。手取り収入はひと月20万円弱。母親と2人で暮らす実家にお金を入れているため、「(家賃のかかる)1人暮らしはとても無理」だ。
今は近所のコンビニでアルバイトをしている。医療事務や介護福祉士などの資格取得について考え始めたところだが、一番の夢は早く結婚して子どもを産むこと。子どものころ、若い母親が自慢だったためで、25歳までには子どもをもちたいと思っている。
周囲で感染した人はいるのか聞いたところ、「ヘアサロンに来ていた女の子たちが『会社でコロナが出た。やばい』って話しているのは聞いたことあります。ここにおっていいと? って思ったけど(笑)」「あ、そういえばお姉ちゃんがコロナになっちゃって」。
彼氏と同棲中の姉は、福岡市の隔離用ホテルが満室になったため、久留米市のホテルに収容されたという。37度台の熱が続き、一時は味覚も嗅覚も喪失した。
(つづく)
【中洲クライシス取材班】
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