2024年11月23日( 土 )

「想定外」の地震多発、見直し必須の原発の耐震基準

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 原発の設計時に将来起こり得る最大規模の地震とされてきた揺れを超える大地震が起こっている。関西電力の大飯原発3、4号機(福井県)の設置許可を取り消す訴訟は昨年12月、原子力規制委員会の規制で想定される地震の揺れの基準をめぐり、原告の住民側が勝訴したが、国が控訴して係争中だ。現在係争中の原発関係の裁判は全国で34件あり、その行方が注目されている。

想定を上回る揺れも

 原子力発電所の耐震規制は、想定される地震のうち最大の揺れが基準とされるべきだが、安全性基準で想定される地震を超える大地震が多数起こっている。原発関係の訴訟は、地裁で下された判決が高裁で覆される事例もあり、その行方が注目される。現在係争中の原発関係の裁判は全国で34件(1月19日、脱原発弁護団全国連絡会調べ)を数える。

 原発の耐震基準は最大で約600~1,000ガルの揺れを前提として設けられているが、1995年の阪神・淡路大震災以降、数多くの地震計が全国に設置され、基準よりも大きな地震が起こっていることがわかった。

 ガルとは、地震の大きさを表す指標の1つである加速度を示す単位。2008年の岩手・宮城内陸地震では最大で4,022ガル、07年の新潟県中越沖地震では柏崎刈羽原発の1号機タービン建屋1階で1,862ガル、同3号機タービン建屋1階で2,058ガル、同6号機原子炉建屋の屋根トラスで1,541ガルの揺れが観測された。全国の原発でも、約600~1,000ガルの揺れを超える地震に見舞われることが十分にあり得ると言える。

武蔵野学院大学特任教授・島村英紀氏
武蔵野学院大学特任教授・島村英紀氏

 また、これらの原発の耐震基準は原子炉本体や格納容器などの主要な部分のみに適用され、緊急時に炉心を冷却する非常用炉心冷却装置や配管などの設備は別扱いだ。本体が地震に耐えられても、配管やパイプの継ぎ目など発電機の周辺設備の弱い部分が壊れると、放射能漏れ事故につながると指摘されている。

 地震研究に長く携わる武蔵野学院大学特任教授の島村英紀氏は、「地震を引き起こすとされる活断層の上だけでなく、活断層がなく地震が起こると想定されていなかった場所でも地震が多発しています。もはやどこで地震が起こるかを予知できません。地震予知は原発の建設や運転にも利用されてきましたが、これまで調査されてきた地震データを基に、原発がある場所で地震が起こる可能性を予知するのはほぼ不可能です」と強調する。耐震基準の設定で用いる過去数百年という短い期間の地震の記録では、裏付けが十分ではないということだ。

懸念される地震時のリスク

 島村氏は「住宅を建てる場所で1,000年や1万年に1回などの地震が起こる可能性があってもそこまで懸念されることではありませんが、原発や核燃料廃棄物処分施設では地震時のリスクを冷静に判断して建設を見直すことが必要ではないでしょうか」という。なかでも放射能廃棄物処分施設は、放射能の懸念がなくなる数十万年後まで地震などで壊れることなく、安全に核廃棄物を保管できる必要がある。

 また全国の活断層は、調査で判明しているだけでも約2,000、知られていないものを含めると約6,000に上ると推定されている。日本は欧州などに比べてはるかに活断層が多いが、活断層は過去数十万年間に地震で動いたもので、地表から見てわかる断層とされるため、地震を引き起こす可能性のある断層はほかにも多い。

 さらに島村氏は「地震がなく安全とされる欧州でも、1~2万年に1度は大きな地震が起こっており、世界中で地震が起こらない場所はほとんどありません。また実際には、一般的に耐震基準として想定される1,000ガルの揺れに対応できる原発をつくる場合でも乗り越えるべき課題が多いといわれ、さらに揺れの強い4,000ガルの地震に耐えられる原発の構造をつくることができるかが問題です」と語る。

 住宅の耐震基準については、大地震の発生を受けて1981年と2000年に建築基準法の規制が強化されている。加えて、16年の熊本地震で震度7を2回も観測したため、さらに基準を強化することが議論されている。

 一方、原発の耐震基準では、震度の計測方法や周波数などの基準を強化することは検討されているが、原発に直接の危害をもたらす地震の揺れの大きさを表す「ガル」の基準については大きな変更は行われていないという。地震時のリスクに見合った見直しが求められている。

【石井 ゆかり】


<プロフィール>
島村 英紀
(しまむら・ひでき)
武蔵野学院大学特任教授。専門は地球物理学(地震学)。1941年生まれ、東京都出身。東京大学大学院理学研究科博士課程修了。東京大学助手、北海道大学教授、北海道大学地震火山研究観測センター長、国立極地研究所長などを歴任。『人はなぜ御用学者になるのか―地震と原発』『直下型地震―どう備えるか』『地震と火山の基礎知識―生死を分ける60話』『多発する人造地震―人間が引き起こす地震』(以上、花伝社)『日本人が知りたい巨大地震の疑問50』(SBクリエイティブ)『新・地震をさぐる』(さえら書房)など著書多数。

関連記事