【北九州】“手術待ち”を“準備期間”へ~産業医大がクラウドファンディング
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手術に向けて自宅で準備する「プレハビリテーション」
産業医科大(北九州市八幡西区)は、新型コロナウイルス感染拡大で全国的に手術延期などの影響が出ていることから、患者自身が自宅で手術に向けての準備「プレハビリテーション」を実施できるように、ガイドブックや動画を製作するためのクラウドファンディング事業を立ち上げた。
延期された期間を利用して運動や栄養サポート、精神的ケアなどを行うことができ、手術後の回復が早くなるだけでなく合併症が減り、長期的な予後(生存率)も良くなるという。“手術待ち”を“準備期間”へ、マイナスをプラスに変える発想でコロナ禍を乗り越えようとの試み。寄付募集は3月31日までで、目標額は220万円。2月17日までに約110万円が寄せられている。
同大第一外科学の医師、佐藤典宏さん(52)の発案。天才外科医の活躍を描いた漫画『ブラック・ジャック』に憧れて外科医になったという佐藤さんは、経験を積むなかで「自らのメスだけで何でも治せる外科医は存在しない」ことを実感する。手術は問題なく終わっても、体力が低下したり栄養状態が悪い患者は手術後に合併症が起こるリスクが確実に増え、それを防ぐ手立ては医師ではなく患者自身にあるという。
プレハビリテーションは米国発の概念で、「事前の」という意味の「プレ」と「リハビリテーション」を組み合わせた造語。有酸素運動、タンパク質摂取を意識した食事、不安を軽減するための瞑想、歯周病を防ぐ口腔ケアや禁煙などを手術前の準備として行う。
とくにがんの手術を控えた患者にとって重要とされるが、日本ではほとんど普及していない。医師が忙しく患者に十分な説明をする時間が取れなかったり、主治医(外科医)のほか麻酔科医、栄養士、理学療法士、心療内科・精神科医らのさまざまな医療関係者がチームとなって患者を支える必要があることなどが、その理由として挙げられる。
手術、治療待ちの患者増は全国的傾向
プレハビリテーションの重要性は最近の研究によって明らかになってきている。たとえば、外科学の英文雑誌『ANNALS OF SURGERY(アナルズ・オブ・サージェリー)』に発表された研究で、大腸がん手術を受ける予定の患者57人を対象にした比較試験によると、プレハビリテーションを実施したグループでは手術後の合併症の発生率は42.9%であるのに対し、実施しなかったグループでは72.4%だった。
ただ、プレハビリテーションは比較的新しい概念で、どのような人が取り入れるべきか、どんなプログラムが最適かなどはいまだ研究段階で、安全性や有効性が100%確立されたものではない。一部のがん患者には運動が不適切な場合もあるため、主治医と相談しながら取り入れることが推奨される。
新型コロナの影響で、同大でもその対応に人的資源や病床数を取られている。緊急に治療を要する患者を優先せざるを得ないため、手術待ちの患者も増えているという。
「そうした患者さんを励ましたいという気持ちでこのプロジェクトを立ち上げました。プレハビリテーションの重要性を知ってもらい、安心して準備を進め、無事に手術を乗り越えてもらうため支援をお願いしたい」(佐藤さん)。
また、野村美保・同大事務局次長は、「手術・治療待ちの患者の増加は全国的な傾向といえる。プレハビリテーションへの関心を高め、導入する動きが全国に広がってほしいという思いでクラウドファンディング事業としました」と話している。
【山下 誠吾】
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