バイデン新大統領は分断が加速するアメリカを立て直すことができるのか?(後)
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NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。今回は、2021年2月19日付の記事を紹介する。
もう1つのトランプ前大統領との共通点は「借金まみれ」ということだ。現在の資産はすでに紹介したが、副大統領に就任した時点で、16.5万ドルから46.5万ドルの借金を抱えていたのがバイデン氏。加えて5万ドルのクレジットを年利7.5%で返済中。上院連邦(信組)から個人的借金を重ねており、こちらは年利9.99%。
記録によれば、2005年には、10年の住宅ローンを組んでいる。金額は10万ドルから25万ドル。息子のためにも5万ドルから10万ドルのローンを肩代わりしている。07年に出版したオーディオブック『Promises to Keep』の前払いでも支払い金は9,563ドルだったので、多額の借金の返済には焼け石に水であった。もちろん、こうした借金の額はトランプ氏とは比較にならない。なぜなら、トランプ前大統領の場合は4億ドルとも5億ドルともいわれ、桁が違い過ぎるからだ。
3つ目のトランプ氏との共通点は女性問題である。トランプ氏の浮気性は有名だが、バイデン氏も19年、8人の女性からセクハラ疑惑で訴えられた。本人は否定し、「政治家として訪問先で有権者と握手をしたりハグしたりすることがたびたびある。そうした行動が女性を不愉快にしたとすれば、大いに反省したい。今後は十分に気を付ける」とのコメントを出している。
いずれにせよ、バイデン氏がよく口にする父親から学んだ言葉は次のようなもの。「男の価値は何度ノックダウンさせられたかではない。その都度、いかに早く立ち上がるかだ」。トランプ大統領からはテレビ討論会でも「居眠りジョー」とか「ベイジン(北京)・バイデン」などとバカにしたり、茶化されたりしたものだ。
しかし、これまでのところ、毎回、素早く立ち上がってきている。はたして、いつまで「あしたのジョー」を演じることができるのか。1月20日に行われた大統領就任式での就任演説は歯切れも良く、国民に団結を訴える中身はトランプ支持者以外の大方のアメリカ人からは歓迎と安堵の声をもたらしたようだ。とはいえ、分裂国家を融和の方向に軌道修正できるのだろうか。複雑化する米中対立に改善のきっかけを見出せるのであろうか。前途は極めて不透明と言わざるを得ない。
バイデン政権の主要閣僚の人事は冒頭に紹介したイエレン財務長官を始め着々と進んでいる。概ね、オバマ政権時代の専門家集団が再登場するような陣容である。経験豊富な専門家揃いともいえそうだが、必ずしも政策がスムーズに遂行されるという保証はない。なぜなら、9・11テロやイラク戦争にしても、民主党政権時代には情報収集がうまくいかず、悲劇的な事態を防げなかったからだ。また、オバマ政権下で行われたイランとの核合意やキューバとの国交正常化も、その後のトランプ政権下でみなご破算にされてしまった。
加えて、大統領の警護にあたるシークレット・サービス要員の人選も難航が露呈した。副大統領の時代に仕えた気心の知れている要員を再度身近に配置したいと願うバイデン氏であった。ところが、トランプ大統領の4年間の間に、腐敗が蔓延したようで、まともな人材は皆、配置換えや引退を余儀なくされていることが判明。トランプ大統領の身辺警備からバイデン氏に横滑りする要員には「トランプ命」といった人間もいるため、とても安心してバイデン一家の安全を任せられないという困った事態が発生したようだ。新大統領の警備に異常事態がないとも限らないのである。トランプ大統領の置き土産にはさまざまな毒が盛られている可能性が高い。
また、バイデン氏が去る12月28日に「国防上の優先順位を見直す」との発言をしたことも、共和党のタカ派の反発を買っている。いわゆる軍産複合体を構成する防衛産業はトランプ政権下で空前の国防予算を手に入れ、わが世の春を謳歌してきた。そこにメスを入れられては一大事とばかり、バイデン氏の安全保障政策にも横やりを入れるだろうことは容易に想像できる。
トランプ時代に創設された宇宙軍を含め、アメリカの国防予算は天井知らずで、今や7,500憶ドルを超えた。それを可能にしたのは「中国やロシアの軍事的脅威論」に他ならない。富裕層に頭の上がらないバイデン大統領であれば、軍需産業界にノーといえるか大いに疑問である。となれば、中国との間で対立解消に向けたイニシアチブを期待することもできそうにない。国内政策を優先せざるを得ないアメリカにとって、最大の脅威となっている中国との和解路線は望めないだろう。
菅総理は大統領就任後、初となる電話会談をバイデン氏と1月27日に行った。その際、バイデン大統領は「日米安保条約に照らし、尖閣諸島の有事に際しては、アメリカが関与する」と明確に述べたとのこと。自身の支持率回復につなげたい菅総理は、嬉しそうに記者団に語っていた。しかし、あくまでリップサービスの域を出ないバイデン発言であることを肝に銘じる必要があろう。相手次第で話す内容を巧みに変えるのがバイデン流である。
本稿ではトランプ前大統領とバイデン新大統領との3つの共通点を紹介したが、4つ目が「同盟国であろうと強かに取るべきものは取る」という姿勢だ。バイデン氏はファイザーなどワクチンメーカーと緊密な関係を結んでいる。献金額でもバイデン支持の中心的存在がファイザーである。そのためトランプ前大統領がホワイトハウスで開催した「ワクチンサミット」にファイザーの社長らは皆、欠席することで間接的なバイデン支持を明らかにした。
見返りにバイデン氏は自分が大統領に就任した暁には「ワクチンの1億人配布を宣言する」と約束。知られざるバイデン氏の暗躍ぶりといえるだろう。もちろん、アメリカ製のワクチンを大量に日本に売り込む準備も怠りない。要は、日本の弱点に付け込む仕掛け人としてはトランプ前大統領以上といえそうだ。ゆめゆめ「居眠りバイデン」というレッテルに騙されてはいけない。
アメリカの国家財政はすでに破綻している。21年末の財政赤字は22兆ドルになる見通しである。連邦議会予算局の予測では「2030年までに赤字額は33.5兆ドルにまで膨れ上がる」。バイデン新大統領が立て直せる金額でないことは明白だ。沈没する「アメリカ丸」と運命をともにするわけにはいかない。
著者:浜田和幸
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