【新・「電通公害」論】崩れ落ちる電通グループ~利権と縁故にまみれた「帝王」の凋落(2)
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ライター 黒川 晶
圧倒的な力を背景に、長期にわたりマスコミを支配し続けてきた広告代理店・電通グループ。だが、「驕れるもの久しからず」。広告料不正請求事件や過労死事件に象徴されるように、綻びが目立ち始め、ついに巨額の赤字決算を計上。利権と縁故にまみれた広告業界のガリバー企業は、音を立てて崩れ落ちようとしている。
業界独占体制の確立
日本の総広告費はGDPの拡大とともに年々増加の一途をたどり、今や7兆円に迫る規模に達している。電通は商業テレビがスタートした1953年以来、そうした日本の総広告費の約4分の1を常に独占してきた。メディア4媒体(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)における売上シェアは常に首位をキープ。とくにテレビのタイム・スポットCMは、4割近くものシェアを占める主力部門であり続けている。
特定の1社がこのように長期にわたって広告業界を占有し続けるのは、世界でも例のないことだという。そして、それを可能にしたものとして、元博報堂社員で電通問題に詳しい本間龍氏は、著書『電通巨大利権』(サイゾー、17年)のなかで次の3つの「日本の広告業界の特殊性」を指摘している。
(1)海外ではスポンサーの企業秘密保護の観点から禁じられている「1業種多社」制が許されていること。すなわち、日本ではたとえば1つの広告代理店がトヨタも日産もホンダも担当できるわけであり、それが電通や博報堂に「あらゆる業種のスポンサーを山のように抱え」「巨大化」することを可能にした。
(2)広告にまつわる種々の業務を広告主に代わり1社がまるごと、それこそ、媒体の選択および広告契約から、マーケティング・リサーチ、広告企画の立案、広告物制作に至るまで引き受ける「総合広告代理店」という特異な事業形態。広告主からすれば「別々の企業と話すよりも1社に全部依頼できれば話が早いから、まとめて全部任せようかということになる。こうして寡占が促進される」。
(3)スポンサーのために媒体の広告枠を購入する機能と媒体のために広告枠をスポンサーに売る機能が、広告代理店のうちに同居していること。すなわち、大手広告代理店は大手メディアの主要な広告枠を買い占め、なおかつ自社に都合よく売ることができるのである。こうして電通と博報堂の2大企業は、ほかの広告代理店に対する強固な「非参入障壁」を形成していくと同時に、どんなスポンサーも「デンパクを通さないとメディア購入ができな」くなるような体制を確立していった。
電通第4代社長の吉田秀雄(1903~63年)が、「人脈」を社内外に張りめぐらせることを通じ、こうした独占体制を揺るぎないものにしたことはよく知られている。吉田は戦後いち早く電波媒体の時代の到来を予見し、政財界の有力人を担ぎ出して日本における商業放送の実現へ向けて動く傍ら、社内では「旧来の広告取り的な幹部」を切り捨てて、政財界とのパイプになり得るような人材を社外からかき集めた。外地から引き上げてきた職業軍人や満鉄職員、ジャーナリズム界でパージにあった者などもどんどん受け入れたという。そして、彼らを社員として教育を施したうえで、各メディアに幹部として次々と送り込んでいった。
一方で、昭和30年代からは新卒社員の大量採用を開始。その大半をいわゆる「縁故採用」により、各業界の有名人の子弟も多く入社させて営業に利用した。たとえば松本清張の長男に出版関係の担当を命ずるなど、時に人質まがいの使い方でクライアントを獲得していったことが知られている。こうして企業・メディア双方の懐深くに入り込み、彼らが「電通サンは切れない」状況、すなわち、高い手数料でも電通に依存せざるを得ないような状況をつくり上げていったのである。
言論の阻害から経済活動の毀損へ
こうした電通の経営戦略について、それが「言論・表現の自由」を歪め、ひいては国民の「知る権利」を奪うという点で、社会に害をなすという指摘は早くからなされてきた。
すでに半世紀前、猪野健治編著の『電通公害論』(日新報道、71年)が、広告出稿量の削減をちらつかせる電通の前に、メディアがいかに広告主に都合よく番組や記事の内容の改変、公開中止を余儀なくされてきたか、さらには、そのことが(森永砒素ミルク事件や大正製薬のパブロン・アンプル服用によるショック死事件のように)いかに国民の不利益を拡大するものか、豊富な事例とともに明らかにしている。近年では、先にも触れた本間龍氏が、原発の安全神話や憲法改正への動きに絡めて、電通によるメディア支配の危険性について警鐘を鳴らしてきた。
電通からすれば、広告主=クライアントの利益を優先するのは企業として当然、と言いたいかもしれないが、広告代理業という業種それ自体がメディアと企業とを結ぶ「メディア(媒体)」であり、3者は運命共同体であることを忘れるべきではない。企業利益を優先するあまりにメディアの信頼性や記事・番組のクオリティーを毀損するようなことがあれば、人々は当該メディアから離れてゆき、企業は広告という投資の効果を減ずることになるだろう。
広告の効果が薄いとなれば、企業が出稿量を減らそうとするのは当然の成り行きであり、それは電通自身の売上低下を引き起こしていく。要するに、電通のやり方は、結局はクライアント企業に不利益をもたらすだけでなく、長い目で見れば自分の首も絞めることにほかならないのである。
(つづく)
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