2024年12月26日( 木 )

アフターコロナの市民の心を癒す「パブリックアート」の大きな役割!(2)

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画家・造形作家 佐藤 雅子 氏

 ニューヨークはアートの街として2つの点で有名である。1つは、ニューヨークには「メトロポリタン美術館(MET)」「ニューヨーク近代美術館(MoMA)」など83もの美術館が存在すること。もう1つは、「パブリックアート」の街であることだ。このパブリックアートがコロナ禍の市民の心を大きく癒し、注目を集めていることについて、ニューヨーク在住の画家・造形作家である佐藤雅子氏に聞いた。
 陪席は、米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長、米国コロンビア大学経営大学院客員研究員として2度のニューヨーク滞在を経験した中川十郎 日本ビジネスインテリジェンス協会理事長である。

家族の訪問時は、PCR検査で陰性を確認

 ――現在のニューヨークは、どのような状況ですか。

佐藤氏作品「KIRAMEKI」
佐藤氏作品「KIRAMEKI」

 佐藤 私は現在、NY、東京、そしてスタジオのある軽井沢を行き来しています。今年はニューヨークから元旦に帰国しました。ニューヨークでは、新型コロナが当初、中国からのウイルスと言われていたため、アジア人への偏見による被害も増え、自分が同じアジア人であるということを意識せざるを得ず、複雑なやるせない思いを感じました。

 帰国直前のニューヨークでは、感謝祭、クリスマス、ハヌカ(ユダヤ教のお祭り)などで祖父や祖母など家族の家を訪問する際は、「Urgent Care」「CityMD」でPCR検査を受けて陰性を確認することが当たり前になっていました。これらの施設はオンラインで予約が簡単にできて、基本的に無料でPCR検査が受けられます。PCR検査は、CVS(アメリカの大手薬局チェーン)からも予約ができて、急ぎの場合は「ウォークイン」(予約なしに飛び込みで行けるクリニック)でも受けることが可能でした。

 当時の日本の報道では、ニューヨーク全体が「死と隣り合わせ」と思わせるものが多くありましたが、コロナ禍の影響は居住区において大きく違っていました。私が住んでいるWestchester(ウエストチェスター)のTarrytown(タリータウン)は、マンハッタンから少し離れており、ロックフェラーの一族の家々が公園内に点在し、地元民の憩いの場であるロックフェラー州立公園保護区があることで知られています。帰国の直前は、公園で散歩する人も多く、スーパーにも品物があふれていました。テーブルがビニールで仕切られてはいましたが、地元民はテイクアウトなどでレストランに気軽に立ち寄っていました。同じニューヨークでも北に行けば行くほど、コロナの影響から遠ざかると言われています。

 今から思い出すと、街中で非常時の緊張感がもっとも高まっていたのは、昨年3月、4月頃だと思います。アメリカの医師らが新型コロナの実体をつかめないなかで、薬局からアルコール類、アセトアミノフェン主剤の商品がすべてなくなりました。日本に帰国した4月は、ニューヨークの空港も日本の空港も人気がほとんどありませんでした。

民族、文化の違う人々が自由を求めて集うアメリカ

 中川 佐藤氏のお話を聞くと、一時的なことだとは思いながらも、ニューヨークの今の状況をとても残念に思います。私は、日本の成田から飛行機に約14時間乗り、ニューヨークのジョン・エフ・ケネディ国際空港に降り立つと独特の高揚感を覚えたことを、昨日のことのように思い出します。ニューヨークには、世界100カ国を超える民族、肌の色(白人、黄色人種、黒人など)や文化などが違う人々が自由を求めて集い、ジョン・エフ・ケネディ国際空港には到着した人と迎えにきた人々のエネルギーや熱気が渦巻いていました。アングロサクソン人などの白人が多いパリやロンドンなどのヨーロッパの空港と比べても明らかに雰囲気が違っていました。

世界的に著名な40の美術館をはじめ、83の美術館がある街

 ――ニューヨークは「アートの街」と言われています。

 佐藤  ニューヨーク市は5つの地区(マンハッタン、ブロンクス、クイーンズ、ブルックリン、スタテンアイランド)から成り立っています。そこには、83の美術館があり、うち世界的に著名なものだけでも約40に上ります。メトロポリタン美術館はその代表格であり、ニューヨーカーには「MET」と呼ばれて親しまれています。ニューヨーカーはニューヨークの運転免許を見せることによって、METの入場料は「Pay What You Wish」という方式で望む額を支払うことができます。

 また、私たちアート仲間はMoMA(ニューヨーク近代美術館)であれば金曜日など、無料になる日をチェックして訪問します。他にもニューヨークならではの目の不自由な人々が手で彫刻に触れて美術を鑑賞するツアーや、家族単位で美術館を回って、展示を企画、運営するキュレーター(博物館や美術館などで作品収集や研究、調査を行う専門職)と一緒に絵を描くプログラムも人気でした。

 アートな世界、アートな仲間のコミュニティでは、ギャラリーホッピングといわれる、さまざまなギャラリーを歩き回ることがもっとも重要と言われています。今話題の場所はチェルシーです。ここには、Larry Gagosian (ラリー・ガゴシアン)やDavid Zwirner (デイヴィッド・ズワィナー)をはじめ18丁目から28丁目までおよそ350ものギャラリーがあります。

 その他にもアッパーイースト、ローワーイースト、ブッシュウィック、ウイリアムズバーグ、レッドフックなど、ニューヨークはどこに行ってもギャラリーが溢れており、また話題となる地域も目まぐるしく変化していて、とてもダイナミックです。

(つづく)

【金木 亮憲】


<PROFILE>
佐藤雅子氏
(さとう・まさこ)
 2014年の香港Asia Fine Art Gallery の「New Year Exhibition」以来、画家/造形作家としての活動を開始。ニューヨークへ移住後、さまざまな展示会の審査に合格し、賞を受賞しながら活躍の拠点を広げる。なかでも、ニューヨーク・マンハッタン区長オフィスアートショー、The Art Students League of New York の栄誉あるブルードット賞、Bronxville Women’s Club での最優秀賞は新聞、ビデオでも放映された。日本では2016年に東京都美術館でのグループ展示会にて入賞をはたし、2017年には新国立美術館、2019年には東京都美術館、2020年は代官山や銀座で出展。マニラ、ロンドン、ワシントンDC、カイロ、香港、そしてニューヨークでの生活を通し、育まれた感性と知覚を活かし、ユニークな色彩感覚と想像力を使い作品をつくり出している。
上智大学新聞学科を卒業後はCitibank に入行、その後、画家・造形作家に転身。現在に至るまで数々のポスターや商品のデザイン、雑誌の挿絵から港区立白金小学校の図書館の壁画なども手がける。ニューヨークの名門The Art Students League of New Yorkのメンバー、MoMAのアーティストメンバー、上智大学ソフィア会文化芸術グループ、現代造形表現作家フォーラムメンバー。

中川十郎氏(なかがわ・じゅうろう)
 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現・双日)入社。海外駐在20年。米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長を経て、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師、ハルピン工業大学国際貿易経済関係大学院諮問委員。米国コロンビア大学経営大学院客員研究員。中国対外経済貿易大学大学院客員教授、同大学公共政策研究所名誉所長、WTO-PSI 貿易紛争パネル委員。JETRO貿易アドバイザー。
 日本ビジネスインテリジェンス協会理事長。米国競争情報専門家協会(SCIP)会員。中国競争情報協会国際顧問。日本コンペティティブ・インテリジェンス学会顧問。天津市河北区人民政府招商大使、産業発展顧問、世界銀行CSR(企業の社会的責任)コンサルタント。オリンパス(株)特別委員会委員。日本貿易学会元理事。国際アジア共同体学会学術顧問(前理事長)。一帯一路陝西友愛研究所副会長などを歴任。14年に東久邇宮国際文化褒賞を授章。

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