JT、あるいは「列強」の迷夢(1)
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ライター 黒川 晶
日本たばこ産業(JT)が2月9日、国内たばこ事業の大規模な縮小を発表した。報道によれば、現在の15支社・145支店体制を7割縮小の47支社に改編。生産拠点についても、2022年3月末に九州工場(福岡県筑紫野市)と子会社の日本フィルター工業(株)田川工場(同県田川市)を閉鎖し、これにより1985年の「民営化」当時に34あった工場は北関東工場(宇都宮市)などわずか3カ所を残すのみとなる。香川県と宮崎県にある原料調達機能も、2022年4月に熊本県の西日本原料本部へ集約するという。
再編に合わせて大規模な人員削減も実施する。JTはこれまでもリストラを繰り返してきたが、今回は国内の正社員6,500人の約15%にあたる1,000人の希望退職を募る。また、営業補佐のパート従業員に対しても退職勧奨や雇い止めを通じて約1,600人を削減。定年退職後に再雇用した契約社員ら約150人の希望退職も募り、2022年3月末までをめどに3,000人規模の人員を減らす予定とのこと。
国内のたばこ事業の業績悪化に加え、「コロナ禍で不確実性が高まる事業環境も踏まえ」ての、「厳しい決断」であったと寺畠正道・JT社長はいう。事実、同日に発表された20年12月期連結決算は、売上収益が前年比3.8%減の2兆926億円。営業利益も同6.6%減の4,691億円で、2期連続の減収減益であった。なかでも大きな落ち込みを見せたのが国内たばこ事業であり、自社たばこ製品売上収益は前年比9.8%減となる5,157億円、営業利益は1,681億円で同10.2%もの減少である。21年12月期も減収減益が続く見込み(JTの予想では売上収益2兆800億円、営業利益3,630億円)といい、年間配当予想も1994年の上場以来初の減配となる前期比24円減の1株あたり130円の方針が示された。
2022年1月には国内たばこ事業をJT本体から切り離し、スイス・ジュネーブのグループ会社「JTインターナショナル(JTI)」の傘下に置く。東京・虎ノ門にあったJT本社ビルも、すでに昨年10月、住友不動産に売却済み。こうして国内外にわかれていた事業運営体制を一本化し、経営資源の最適化を図るというのであるが、要は日本のたばこ事業者であることをやめ、正真正銘の多国籍コングロマリット企業へと脱皮を果たそうというわけだ。国内のたばこ産業を守るために「JT法」で国内たばこ事業の独占を許され、筆頭株主が財務大臣という半国営企業でありながら。
その道義的問題はさておくとしても、そうやって「脱皮」したJTが今後、世界市場で大きく羽ばたくことになるだろうか。これまで主力であり続けてきた紙巻たばこは、世界的な規制強化およびたばこ離れの広がりですでに「オワコン」。これに代わる成長カテゴリーの加熱式たばこにしても、いちはやくこの分野にシフトし瞬く間にトップシェアを獲得したフィリップ・モリスの「IQOS(アイコス)」シリーズや、ブリティッシュ・アメリカン・タバコの「glo(グロー)」シリーズを前に、JTの「Ploom(プルーム)」の影は薄い。
何より、そんなグローバル市場で「列強」に戦いを挑めるような体力は、JTにはもはや残っていないのではないか。というのも、弱肉強食の自由競争を建前とする米国流のグローバル企業を志向しながら、専売公社時代以来の国営企業としての在り方にも依存するという中途半端な歩みのなかで、JTの健全な発展というものとはまったく別の関心で以って群がる種々の勢力によって、今やしゃぶり尽くされた感があるからである。
(つづく)
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