【特別インタビュー】介護DXは「人と向き合う時間」を取り戻すためにある ウェルモが挑む介護現場の生産性革命

(株)ウェルモ
代表取締役会長兼社長 鹿野佑介 氏

(株)ウェルモ 代表取締役会長兼社長 鹿野佑介 氏

 高齢化が進む日本において、介護人材の不足はすでに構造的な課題となっている。一方で、介護現場では記録や帳票作成、自治体提出資料の作成など、膨大な事務作業が職員の時間を奪っている。2013年に創業した(株)ウェルモは、AIやRPAを活用し、介護業務支援システム「ミルモ」シリーズを展開。介護事業所や自治体の業務効率化を進めてきた。鹿野佑介代表は「人でなければできない介護に時間を割くため、無駄な作業を限界までデジタル化すべきだ」と語る。介護DXの可能性と課題、そして日本が高齢化先進国としてはたすべき役割について聞いた。

紙だらけの介護現場に衝撃

 ──ウェルモを立ち上げたきっかけから聞かせてください。

 鹿野佑介氏(以下、鹿野) 2013年にウェルモを設立する前に8カ月ほど、介護現場でボランティアをしたり、関係者にインタビューしたりして、いろいろな調査をしていました。

 最初に介護現場に入ったのは仙台でした。当時の介護現場はほとんど紙で関係書類を作成していました。カーボンコピー紙に記録を書き、ベリッとめくって渡すような世界です。私はそれまで大企業向けのITコンサルタントをしていたので、そのギャップに強い衝撃を受けました。

 当時、介護給付費は7兆円ほどでした。それだけ大きなお金が動く分野で、これほどアナログなやり方をしているのかと驚いたのです。現在は介護給付費も14.3兆円規模にまで拡大しています。介護分野では、いずれ必ず人手が足りなくなる。生産性の問題に早く取り組まなければ国家的な課題になると考え、会社を立ち上げました。

 今でこそ厚生労働省も介護保険DXを掲げ、運営基準の緩和やデジタル政策を進めていますが、当時はそうした話はほとんどありませんでした。ITと聞くだけで嫌がられる時代で、「介護は人と人だから、ITはいらない」という空気も強かったのです。もちろん介護には人と人でなければできない部分があります。しかし、時代は変わります。10年、20年後には、デジタル化せざるを得ない状況になると見えていました。

新しいもの好き 福岡の可能性

 ──本社は福岡にありますね。なぜ福岡で創業したのでしょうか。

 鹿野 私は大阪出身で、東京で仕事をしていました。福岡に特別な縁があったわけではありません。創業前に、東北から東京、大阪、福岡まで、各地の自治体や介護現場を回って、ボランティアやインタビューをしていましたが、そのなかで感じたのは、福岡の人たちは新しいものが好きだということです。東北は比較的保守的なカルチャーがありました。

 一方、福岡市は行政も含めて、新しいことを積極的に進める文化がある。介護DXのような新しい取り組みでは、自治体や介護事業所と組んでエビデンスをつくっていく必要があります。その意味で、福岡市の文化は非常に相性が良いと感じました。

 もう1つは人の縁です。最初に福岡の老人福祉施設協議会の関係者と話したとき、私の思いに乗ってくれました。まったく縁のない土地にきて、こういうことをやりたいと話したところ、いろいろな人を紹介してもらいました。九州は人と人の距離が近いと感じます。そのようなご縁があり福岡で起業することになりました。この文化や人柄は本当に素晴らしいと思います。

介護事務をAIで自動化 25時間の作業が30分に

 ──現在、どのようなサービスを提供しているのでしょうか。

 鹿野 介護DXサービスとして、介護現場の事務作業を自動化するシステムを提供しています。介護分野は、法律に基づく記録や帳票が非常に多い。そこで、音声AIで内容を要約したり、帳票生成AIで必要な情報を組み合わせたりして、自治体に提出する資料や法定記録を自動で作成する仕組みを開発しています。イメージとしては、リーガルテックに近いと思います。介護保険法に準じた書類を自動でつくるサービスです。

 顧客は介護事業所が中心です。これまでは在宅介護事業者向けが中心でしたが、最近は施設系の顧客も増えています。医療や障害福祉の領域でも利用が広がっており、事業者側だけでなく行政へもサービスを提供するなど、かなり幅広く対応しています。

 たとえば、地域包括支援センターや自治体窓口で紙をゼロにする取り組み、デイサービスの家族向け報告書の自動作成、在庫管理システムの自動化、介護認定調査の記録支援などがあります。年間で約4,000件の介護DX事例が生まれており、さまざまな法定記録や様式に合わせて業務を自動化しています。

 ──主な対象は中小の介護事業者になるのでしょうか。

 鹿野 介護業界は14.3兆円市場ですが、そのうち9割は中小企業です。大規模な会社は多くありません。私たちは、この9割を占める中小の介護事業者にサービスを提供することをミッションにしています。

 小規模な介護事業所には、人事部も情報システム部門もないことが多い。人手不足も深刻です。そのため、支援経過記録、担当者会議、アセスメント、認定調査、ケアプラン、保険請求作業といった介護の事務作業、つまりバックオフィス業務の自動化が重要になります。

 これらの業務を従来の手作業で行うと膨大な時間がかかりますが、AIで自動化すると、たとえば、25時間かかっていた作業が当社のシステムでは20〜30分になるケースや、450分かかっていた作業が数分で終わる例もあります。ケースによって異なりますが、導入事例を見ると、概ね8〜9割程度の時間削減ができています。

 ──具体的には、AIとRPAをどのように使い分けているのでしょうか。

 鹿野 当社のシステムは大きく3つの仕組みが連携しています。1つは、音声からAIで要約し、法定記録の様式に落とし込む「ミルモレコーダー」です。もう1つは、基幹システムなどからデータを取り出し、Excel様式の書類を自動で作成したり、在庫管理システムから別のシステムへデータを処理する帳票を中心としたAI「ミルモAI」です。

 また、他社ソフトとの連携ではRPAを使います。連携系はRPA、それ以外の文章作成や要約、帳票生成はAIというイメージです。どうしても現場では帳票から異なる帳票へのコピー&ペーストの作業が発生しますが、その部分は「ミルモオートメーション」で処理しています。

AI×RPAの力で、「利用者に向き合う時間」を創出

介護に必要な新しい人材 デジタル中核人材を育てる

 ──eラーニングサービスも提供されています。

 鹿野 「ミルモラーニング」は、介護現場でデジタルスキルを高めるためのeラーニングサービスです。システムを導入しても、それを使いこなす人材がいなければ定着しません。厚労省も、介護分野には「デジタル中核人材」が必要だとしています。現場のなかに柱となる人材を育てなければ、企業内部で質問対応もできません。そのため、他社事例やAI活用の方法を学び、自分たちで業務DXを始められる環境を提供しています。

 補助金や助成金も活用できます。令和6年度補正予算では、介護分野の人材確保やシステム導入に関する予算がつきました。システム本体の導入補助、人材育成の助成などがあり、当社のプロダクトも補助金を活用して導入できます。

ケアテックを政策に位置づける

 ──(一社)日本ケアテック協会の会長も務められていますが、協会ではどのような取り組みをしているのでしょうか。

 鹿野 日本ケアテック協会は2020年に設立しました。現在、会員は600〜700ほどに増えています。主な活動は政策提言と、介護事業所とテクノロジー企業のマッチングです。特徴的なのは、テクノロジー企業だけでなく、介護事業所も会員になれることです。メーカー側だけではなく、使う側も入っている協会です。これは非常に大事にしている考え方です。道具は使われなければ意味がありません。介護現場とテクノロジー企業の橋渡しをするために協会をつくりました。

 介護関係は行政へ提出する書類がたくさんありますが、その運用ルールはとても古く、押印を必要とされたり、紙での提出を求められたりという規制がまだ残っていました。そうした規制を緩和するため、自民党の議員連盟や職能団体などとも連携しながら政策提言を進めてきました。

 これまで提言してきたもののうち、7割程度は実現してきた感覚があります。一方で、積み残しもあります。介護現場や高齢者が困っている以上、使えるテクノロジーは何でも使っていく必要があります。最終的に困るのは国民です。テクノロジーの恩恵を受けられる国にしていくことが、協会としての大きな役割です。

政策で抜け落ちている利用者目線のテック支援

 ──介護DXというと、事業者側の業務効率化だけでなく、利用者側の選択肢を広げる可能性もあると思います。

 鹿野 そこは今、政策上の大きな課題です。介護テクノロジー利用の重点分野は、基本的に介護事業所の業務システムとして定義されています。介護保険法自体が、介護事業所を起点に設計されているため、利用者目線のテクノロジーが十分に位置づけられていません。

 唯一、利用者に近い制度として福祉用具がありますが、福祉用具が十分にテック化されているかというと、そうではありません。たとえば、テクノロジー化されたベッドのようなものが、現行の重点分野から外れてしまうことがあります。

 これは政策上の課題だと考えています。利用者目線で、先端技術を活用した福祉用具や在宅ケアテックを普及させる仕組みが必要です。高度化すると福祉用具から外れ、保険提供の対象外になることすらあります。性能が上がると保険から外れるというのは、今の時代に合っていません。

 中国や台湾などでは、在宅で高齢者をどうシステム化して見守るかという取り組みがかなり進んでいます。日本はこの分野で非常に遅れている。これは高齢化率が世界第1位の国として取り組むべき政策マターです。利用者が直接利用できるケアテックの新しい保険収載の仕組みが必要だと考えています。

「人手不足」の前にやるべきことがある

 ──介護分野では人手不足が大きな課題とされています。一方で、DXが遅れていることを人手不足に転嫁している面もあるのではないでしょうか。

 鹿野 そのような面はたしかにあると思います。新しいものの導入に抵抗が大きいことも日本社会の課題です。日本では「学び直し」の文化が弱い。使い慣れたものを使い続けるという発想が強いですが、新しいものを取り入れて業務を効率化し、たとえば介護現場であれば、空いた時間を利用者への対応に使うべきです。

 日本の労働生産性は国際比較でも低い。人口減少が進むなかで、新しいものは学習コストがかかるから使えない、という姿勢では済まされません。もちろん、人でしかできない仕事はあります。建設現場の職人不足のように、すべてをデジタル化できない分野もあります。しかし、デジタル化できる部分については、限界まで努力すべきです。そのうえでなお人手が足りないのであれば、それは本当の人手不足です。

人間中心のテクノロジーへ

 ──今後のビジョンを聞かせてください。

 鹿野 当社のパーパスには「人ありき」のテクノロジーという言葉を掲げています。介護には、人と人でなければできないことが多くあります。2040年までにテクノロジーでできること、できないことは必ずあります。

 一方で、人にやってほしくない介助もあると思います。プライバシーや尊厳を考えれば、ロボットやテクノロジーの方が気楽だという人もいるでしょう。人がやるべきところは人がやり、人でなくてもよいところ、人でないほうが良いところはテクノロジーを使う。その切り分けが大事です。

 すべてを機械化すればよいとは思っていません。終末期のスピリチュアルケアなど、人が寄り添うべき場面はあります。だからこそ、事務作業や無駄な作業をなくし、人が人に向き合う時間を捻出する必要があります。

 2040年には介護人材が69万人不足するといわれています。生産性を2割向上できれば、その不足のかなりの部分を解決できます。私たちは、介護現場の無駄な作業を減らし、人と向き合える時間をつくることを目指しています。

【参考】介護テクノロジー利用の重点分野の全体図と普及率

高齢化先進国・日本 世界のモデルになるべき

 高齢化の課題は、日本が世界で最も先に直面しています。多くの人は忘れがちですが、この領域では日本がリーダーです。実際、海外からも多くの視察がきています。

 しかし、介護というと、どうしても暗いイメージをもたれがちです。資本主義国家の多くは少子高齢化に向かっていますが、そのなかでも日本は最前線にいます。今までのやり方を続けるのではなく、新しいモデルをつくる機会でもあります。

 日本は海外の真似をしがちですが、この分野では日本が世界の先頭にいます。だからこそ、創造性をもって向き合うべきです。高齢化対策をうまく進めている国として、世界に誇れる日本にしたい。介護は、世界のお手本になれる領域です。そのことにプライドをもって取り組む必要があると思います。

【寺村朋輝】


<PROFILE>
鹿野佑介
(かの・ゆうすけ)
(一社)日本ケアテック協会会長。 東京大学高齢社会総合研究機構共同研究員。
大阪府豊中市出身。(株)ワークスアプリケーションズ(現・(株)Works Human Intelligence)にて人事領域のITコンサルタントを経て東証一部上場企業人事部へ。その後、介護現場の働きがいに課題意識をもち8カ月間にわたり仙台から東京、福岡まで、計400法人を超える介護事業所にてボランティアやインタビューを実施。2013年ウェルモを創業。累計56億円調達。Forbes JAPAN 2018 NEW INNOVATOR日本の担い手99選出。2019経済産業省主催ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト、Slush Helsinki 2019など、創業より14賞受賞。


<COMPANY INFORMATION>
代 表:鹿野佑介
所在地:福岡市中央区大名2-6-11
設 立:2013年4月
資本金:1億9,783万円 ※26年5月末時点
URL:https://welmo.co.jp

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