【劇団わらび座特集(1)】「わらび座支援協議会」発足 最大の危機をチャンスに(後)
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秋田県仙北市の「あきた芸術村」を拠点に、オリジナルミュージカル公演を行う「劇団わらび座」は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で苦境に立たされている。(株)わらび座・代表取締役社長の山川龍巳氏に、わらび座の現状と今後の取り組みについて聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 執行役員 鹿島 譲二)
秋田の子どもたちに「ふるさと教育」を
――そうそうたるメンバーですね。佐々木先生と尾木先生は教育者ですが、わらび座と教育とはどのような関わりがあるのですか。
山川 優れた舞台創造には、人間の生き方に直接影響を与える力があります。教育力というと固いイメージになりますが、思いやり、やさしさ、怒りなど人間の心情は義理人情も含めて、人間社会の潤滑油として大切なものです。先人たちの息遣いも含めて受け継ぎ、再創造させることが大事だと思います。
2015年に、秋田市の子どもたちへの「ふるさと教育」として、秋田商工会議所・三浦廣巳会頭を中心に秋田県、秋田市、秋田魁新報などで組織する実行委員会から、わらび座に作品制作が依頼されました。最初の舞台である内館先生脚本のミュージカル「政吉とフジタ」を秋田市の中心市街地に位置する「秋田市にぎわい交流館AU」で上演しました。
このミュージカルは、秋田の大地主の跡取りである平野政吉が藤田嗣治(のちのレオナール・フジタ)の描いた1枚の絵と出会ったことがきっかけとなり、政吉の「本物の芸術を秋田に、秋田の子どもたちに」という情熱に心を動かされた藤田が巨大壁画「秋田の行事」を描くという物語です。「政吉とフジタ」の上演は、秋田の子どもたちに「ふるさと教育」をするために行ったものです。「政吉とフジタ」は大変高い評価を受け、文化庁の補助事業として3年間にわたって実施されました。その後は秋田県、秋田市、秋田商工会議所などが実行委員会を組織して、さらにもう3年間上演しました。
三浦会頭の「賑わい創出といえば、物販の販売などがメインだが、今回は文化力をコアに子どもたちに感動を提供し、ファミリーが集う仕組みをつくり、飲食などが活用されるスタイルを目指したい」との発言には感動しました。
――現在はどのような状況でしょうか。
山川 この事業は6年間続いていますが、実行委員長は三浦会頭が継続されています。秋田市が中心の運営母体となり、昨年から今年1月にかけて、わらび座が制作したミュージカル「竿燈(かんとう)物語~天の川に稲穂輝け~」を上演しました。福岡には竿燈祭りをご存知ではない方もいると思いますが、博多の人にとっての山笠のような祭りだとイメージしてもらえばわかりやすいのではないでしょうか。
このミュージカルは、貧困との戦いや災害の被害に遭うなど苦しい状況に陥ったとしても、皆で力を合わせて、祭りを盛り上げていく姿を描いています。これを観た方々からは、苦難を乗り越えるために、どういう思いで先人たちが祭りをつくっていったのかを知り、竿灯祭りがもっと好きになったという感想をたくさんもらいました。
経済法則を前面に打ち出した社会システムが、人間の幸福を追求するために機能していることは否定できませんが、今回のコロナ禍で世界のトップエリートたちは直観力を養うために「アート」の勉強をしているそうです。複雑怪奇なこれからの世界の重要な判断力の基準が、「直観力」であるということです。「感動」や「共感力」といったものは、合理的に生きている人のロジックには勝てないかもしれませんが、人間にとってもっとも重要なことだと気づいた人は多いでしょう。
若い人が将来の夢や希望をもちづらいという、世間に漂う閉塞感を我々の先輩たちは舞台を通して打ち破っていこうと努力してきました。コロナ禍で残念ながら、「3密」となってしまう各地の祭りは軒並み中止を余儀なくされました。博多の人にとって山笠のない状況など耐えられないものだと思います。人間にとって、祭りなどの人と人との密接な関わりをともなうイベントは、とても大事だと思います。コロナ禍が終息して、再び全国各地で祭りが開催される日が1日でも早く訪れることを切に願っています。
祭りに込められた人々の願いや協働する姿、困難をはねのける力、わらび座はこうした人々の姿を描くことに力を入れてきました。歴史をつくってきた先人たちが、我々に思いを託してくれている気がしていて、我々はその思いを裏切らない覚悟を見せられていると自負しています。
わらび座の舞台を見てくださった方から、「自分の住んでいるまちを見つめ直す良いきっかけになった」「自分の生まれ育ったこのまちが好きになった」「このまちの文化を次の世代に継承していかなければならないと思った」といった意見を数多くいただいています。やはり、地域活性化に成功しているまちは、自分たちが住むまちを愛する人たちがたくさん住んでいるところだと思います。我々は、その地域の伝統的な素材をモチーフにして、後継者育成のためのプログラムを地域の方々とともにつくり、共同で脚本をつくる。そして我々が地域住民に演技指導を行う。ゆくゆくは、そうした取り組みも行っていきたいと考えています。
新作「北斎マンガ」 5月から公演スタート
――今年5月からは新作ミュージカル「北斎マンガ」の全国ツアーがスタートします。どのような作品ですか。
山川 「北斎マンガ」はわらび座創立70周年記念作品として1年半ぶりに新作上演するもので、脚本・演出をマキノノゾミさんが手がけます。福岡では6月11日にアクロス福岡シンフォニーホールで公演予定です(主催:(株)データ・マックス)。
「北斎マンガ」は、生涯にわたり「生きるおもしろさ」を求め続け、自分が納得のいく絵を追求し続けた浮世絵師・葛飾北斎の生きざまを描いた作品です。「今、子どもたちに伝えたいものは何か」を考え抜いた結果、この作品にたどり着きました。ヒップホップの歌とダンスで始まるテンポのいい舞台となっています。
北斎は絵を描くこと以外にはまったく興味を示さない、ある意味「非常識の塊」のような人物で、生涯にわたり自身の夢と向き合い続けました。若い世代にとって現代は夢をもちづらい時代だと思います。夢をもつことは、「自分は何が好きなんだろう」「何をしているときに一番前向きになるだろう」と考えるところから始まります。「北斎マンガ」が自分自身の夢について考えるきっかけになれば幸いです。
いうまでもありませんが、芝居は「作り物」です。しかし、良質な芝居から学べることはたくさんあります。日常生活以上に人間の本質を炙り出して描くのが芝居というものであり、人生の指針となり得る力をもっています。「北斎マンガ」も、見た人の人生や日常の指針となるような舞台にしていきたいですね。
(了)
【文・構成:新貝 竜也】
【INFORMATION】
ミュージカル「北斎マンガ」 福岡公演
<開催日時>
2021年6月11日(金)
<開 演>
午後6時30分(開場:午後5時45分)
<会 場>
アクロス福岡シンフォニーホール
(福岡市中央区天神1-1-1)
<チケット>
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