2024年12月27日( 金 )

東北新社の電波利権、菅首相の天領・総務省との癒着~首相の長男を前面に立て、電波を割り当てる総務省幹部への接待工作をフル回転(2)

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 総務省は菅義偉首相の天領である。(株)東北新社は、首相の長男・正剛氏を前面に立て、電波を割り当てる総務書幹部の接待攻勢に全力投球した。総務省幹部らの接待スキャンダルは、政権を揺るがす事態に発展。総務省が東北新社の衛星放送の認定を取り消すことで幕引きが行われた。この事件で、テレビや新聞が絶対に報道しないことがある。「電波利権」の問題だ。総務省は放送と通信の巨大な「電波利権」を牛耳る官庁だ。その急所をつくことは、「電波利権」の恩恵を浴しているテレビとその親会社の新聞にはタブーなのである。

山田真貴子総務審議官への接待は、1人7万4,000円の「和牛ステーキと海鮮料理」

 1990年代に、金融機関による大蔵省・日銀の接待攻勢は悪名を轟かせた。日銀マンは銀行からの接待を水に例えて「ざぶん」と「どほん」という隠語で呼んでいた。比較的料金が安い1人1万円程度の小料理屋に招かれる場合は、「すそに酒がかかる程度の軽い接待」だから「ざぶん」、5万円前後の高級料亭や高級クラブなどでの高額接待は「酒に浸りきってしまうため」に、「どぼん」なのだという。接待はそれほど日常的に行われていた。

 山田真貴子・前内閣広報官は、総務審議官だった19年11月、和食レストランで、1人7万4,000円相当の和牛ステーキと海鮮料理の接待を受けた。山田氏への接待は「どぼん」以上だ。この席には、首相の長男・正剛氏も同席した。

 民放業界では、監督官庁である総務省の官僚の接待を「アゴアシつき」と呼ぶ。「アゴ」は飲食代、「アシ」は交通費(タクシーチケット)。東北新社の接待には「アゴアシつき」が含まれる。

元大蔵省担当の情報収集のプロは喝破。高額接待は「下の下」なり

 こうした高級店での接待は、情報収集のプロによると、「下の下」という。「戦後最大の経済事件」といわれるイトマン事件の告発者として知られる元住友銀行取締役・國重惇史氏は、『住友銀行秘史』を著してベストセラーになった。その國重氏のバブル銀行時代を描いた、児玉博著『堕ちたバンカー 國重惇史の告白』(小学館)のなかで、役人から重要な情報を引き出す際や、頼みごとをする際の極意を語っている。

 國重氏は住友銀行のMOF担(大蔵省担当)だった。MOF担の仕事は、大蔵官僚を接待して人脈をつくることに尽きた。なかでも、銀行検査に関する情報収集と検査時の対応が重要な任務であった。

 國重氏は、住友銀行に入るMOF検(大蔵省の検査)の日取りも、秘中の秘である各行の収益表も、損益状況表も、すべて焼鳥屋で教えてもらい、プツを手に入れた。「クラブや料亭を使うのは、下の下」という。

 個室になると人間は必ず構えてしまうんだよね。何か特別な感じがしてしまうから。それが、カウンターで横に並んで話すと、肩が触れ合うような親近感が生まれる。息がかかるほどの近さは、いつの間にか“共犯”に近い関係は醸し出すんだよね。それが、大切なんだよ。“共犯関係”が。

 重要な情報は焼鳥屋で取れ。情報収集のプロ、國重氏の極意である。

 日銀・大蔵接待汚職事件で、大蔵省は財務省と金融庁に解体。戦後最強の官庁といわれた大蔵省の力は失墜した。MOF担も廃止になった。

民放キー局の総務省担当は「波取り記者」と呼ばれる

 民放キー局には、MOF担にあたる総務省担当記者がいる。「波取り記者」と呼ばれる記事を書かない記者のことだ。

 「波取り記者」という言葉は、2019年3月4日、総合オピニオンサイト「iRONNA」の記事『電波利権「波取り記者」の恐るべき政治力』で明らかになった。内閣官房参与で嘉悦大学教授の高橋洋一氏が、06年ごろ総務大臣補佐官を務めていた経験を基に、以下のように指摘している。

 総務省在籍当時、筆者の仕事部屋は大臣室の隣にある秘書官だった。筆者とは面識のない多数の方が秘書官室を訪れ、名刺を配っていく。筆者も秘書官室の一員であるので、名刺をいただいた。それを見ると、メディア関係の方々だ。そのなかに『波取り記者』と呼ばれる人も含まれていた。

 『波取り記者』の『波』とは電波のこと。『波取り記者』とは、記事を書かずに電波利権確保のために電波行政のロビングをする人たちだ。

 波取り記者の所属は編集局ではなく、本社の電波を担当している部門だ。普通の記者と違うのは、役所の審議会や研究会に参加できること。役所では地デジ移行など新たな政策に取り組む際に大臣や局長による私的諮問機関を立ち上げる。波取り記者は、そうした研究会に非公式メンバーとして参加する。

 東北新社による総務官僚の接待攻勢は、波取り記者がお膳立てしたものだ。波取り記者は政治家の威光を背に官僚に圧力をかける。

(つづく)

【森村 和男】

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