東北新社の電波利権、菅首相の天領・総務省との癒着～首相の長男を前面に立て、電波を割り当てる総務省幹部への接待工作をフル回転（5）

人形劇のテレビ『サンダーバード』の版権で大当たり

　1966年、SF特撮人形劇のテレビシリーズ『サンダーバード』で吹き替えだけでなく、自ら海外から番組を輸入する版権ビジネスに進出した。これは、貿易自由化により、大手テレビ局以外の企業も海外送金が自由化され、海外からテレビ版権を購入することができるようになった。NHKで放映され、子どもたちに爆発的な人気を博した。

　アニメ作品『宇宙戦艦ヤマト』の版権を買い取り、ディズニーの日本語吹き替え版製作を担当。劇場アニメ映画『千と千尋の神隠し』を徳間書店、日本テレビと共同制作した。

　創業者の植村伴次郎氏は、衛星放送に並々ならぬ意欲をもっており、「CMプロダクションのオヤジで終わりたくない」と口にしていたという。86年に「スター・チャンネル」を設立して衛星放送事業に進出。「ファミリー劇場」「ザ・シネマ」「囲碁・将棋チャンネル」「釣りビジョン」などのオーナーになった。

　2002年、株式を店頭登録（現・JQ上場）、港区赤坂に新本社ビルを完成。東北新社が大躍進する原動力になった版権ビジネスになぞらえて「サンダーバードビル」と呼ばれた。

　これを機に、伴次郎氏は第一線を退く。03年に会長となり、09年に最高顧問に退いた。主力であるCM制作の林田洋氏が2代目社長に就き、10年まで社長を務めた。

創業家、植村ファミリーによる同族経営の終焉

　東北新社は19年、大きな転機を迎える。19年3月期の売上高は626億円と前期比2％の減収となり、15億円の最終赤字（前期は23億円）に転落した。CM制作部門は好調だったものの、映像制作部門で大型案件がなくなり収益が落ち込んだ。デジタルコンテンツ制作を手がける子会社の減損損失も響いた。年間配当は前期比7円減の16円に減配した。

　植村誠社長が引責辞任した。誠氏は創業者の伴次郎氏の長男で、10年に3代目社長に就いていた。中学時代から海外生活が長い国際派で、「第2のサンダーバード」の発掘を目指した。後任の社長は、伴次郎氏の娘婿で、博報堂出身の二宮清隆氏が就いた。

　訃報が相次ぐ。創業者の伴次郎氏は19年10月15日、肺炎のため90歳で亡くなった。伴次郎氏の長男で、前社長・誠氏も20年4月21日、58歳で死去した。

　今回の事件がそれに追い打ちをかけた。総務省幹部を接待した問題で、二宮社長は2月26日、引責辞任し、ファミリーによる経営に終止符を打った。

　後任の社長に中島信也副社長が昇格した。CMディレクターとして有名な人物だ。菅義偉首相の長男である正剛氏を懲戒処分し、メディア事業の趣味・エンタコミュニティ統括部長を解任し人事部付けに異動。正剛氏は子会社の囲碁・将棋チャンネルの取締役を辞任した。

注目は、相続税の支払いによる株主構成の変動

　東北新社は、映像版権やBS・CS放送も手がけるが、CM制作が主力で、全社の営業利益の9割を叩き出していた。CM制作が、映像版権やBS・CS放送の低収益を補てんしてきたのが実情だ。コロナ禍では、各社は広告費を削る。そのためCM制作の仕事が減少した。

　21年3月期の連結決算は、売上高が前期比13％減の522億円、営業利益は71％減の8億円、当期利益は63％減の6億円と、大幅な減益になる見込み。

　総務省官僚の接待問題で、主力のCM制作の受注にどう影響するかは見通せない。創業以来、最大の試練を迎えている。

　注目は株主構成がどう変わるかだ。20年9月期中間決算時点での持ち株比率は、1位が （故）植村徹氏の18.55％、2位が（故）植村伴次郎氏の16.94％など、一族名義が59.59％を占める。定型的な同族経営だ。今後、名義を書き換えるにあたり、巨額な相続税を払わねばならない。相続税を支払うために、株式をどうするか。東北新社が買い取るのか、それとも、外部に売却するのか。いずれにせよ株主構成は大きく変わることになる。

（了）

【森村　和男】