【企業研究】九州卸の雄・ヤマエ久野(1)
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卸の新ポジション
ヤマエ久野(株)の祖業は、宮崎県の内陸部で始めたでんぷん製造。その後、飼料・酢類・食品雑貨を取り扱うようになり、現在に至っている。
企業の寿命が30年といわれるなか、1950年の設立から71年が経過。仕入れ先約4,800社、関連子会社28社。九州におけるセブン-イレブンのパートナー企業で、大手の外食産業やスーパーマーケットなど幅広い取引先をもつ。年間売上は5,200億円余り(2020年3月期)。創業以来、関東と関西にも拠点をつくりながら順調に業績を伸ばし続ける九州流通業界の雄だ。
しかし、主業である食品卸部門のクライアントの外食と小売は少子高齢化という逆風のなか、新たな問題を突き付けられている。それは新型コロナとEコマースだ。
コロナ禍の飲食業への影響はとくに深刻で、都心の夜の街ではその3~4割の店舗が廃業を検討しているとされ、都心で外食や飲食店向けの酒類販売子会社を運営しているヤマエ久野にとっても小さくない問題だろう。都市部のコンビニも同じ。在宅勤務でサラリーマンのニーズが減少し、極めて深刻な業績に陥っている。彼らもヤマエ久野の大事な顧客だ。このため、しばらくは我慢の経営が続く。
卸の仕事はまず、メーカー産地情報を小売に伝え、彼らが生産する商品を選択、販売してもらうことが中心になる。そこで生まれる市場ニーズや状況を細かく生産者に伝え、消費と生産を効率よく一致させる。卸はそのような情報産業としての一面ももつ。
しかし、消費市場は地域や流行などの要因により目まぐるしく変化する。少なくない卸がそれに対応できず、姿を消した。とくに、スーパーマーケットなどの量販店が一般化してからは、小規模小売や酒販店を顧客としていた地方の卸は短期間で淘汰された。それを乗り越え、生き残った卸のポジションも極めて厳しい。そんななかでヤマエ久野は関西・関東地区にもエリアを広げて、近年その存在感を高めている。
SNSを介して消費者が直接情報を手にすることが普通になった現代では、消費市場の変化がかつてとは比べものにならないほど急速に進行している。変化は消費市場だけに限らない。個人も含めた生産者の製造小売への進出と、小売業者の生産、物流業への参入だ。これらはいずれも中間流通の主役である卸に影響する。
この10年、青果市場や水産市場の取扱量は大幅に低下している。取扱量の低下は卸売市場のもつ情報や提案力、生産者育成などに影響する。それを補う形態が6次産業化といわれる生産・加工・販売の一元化だ。しかし、10年余り前に始まった政府主導のこの方式は、2001年の1兆円から20年には10兆円という目標に達していない。
目標達成に向けて生産・加工・製造が占める売上や利益の拡大が必要だが、ここに消費市場とメーカーの情報に精通する食品卸が介在する余地があるはずだ。小売という川下、メーカーという川上から揺さぶられる卸にとって、リスクはあっても自らが主導する新たな流通形態への挑戦となる。さらに卸には市場が担う機能に加えて、小売事業へさらに深くかかわることを検討すべき時期にきている。生産者との協業は、お互いの徹底した共助意識としっかりした契約履行が求められる。一般的に生産者は市場価格が事前の契約価格を大きく上回ると、契約した量を契約価格で納品せずに第三者に流す。一方、メーカーも予定価格での販売がうまくいかないと、納入価格の引き下げを要求する。
かつて話題を呼んだ大手冷凍食品メーカーが産地と組んだ革新的な計画生産が頓挫したのも、このような事情による。課題を乗り越えて従来型の経営を変えることができれば、生き残りのための大きな武器になる。
(つづく)
【神戸 彲】
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