【企業研究】九州卸の雄・ヤマエ久野(2)
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大きく変貌する流通業
流通業を取り巻く環境は、少子高齢化に加えて、新型コロナウイルス感染拡大というゲリラ的に発生した逆風に見舞われ、今や乱世ともいうべき様相を呈している。さらなる問題は、消費市場規模に対して過剰な店舗数だ。それはスーパーマーケットだけでなく、コンビニやレストランチェーン、紳士服専門店などの業態にも共通する。
かつて環境変化という乱世は幾度もあった。戦後の復興期、高度成長期、個別対応、食品の安心安全。それらに添い寝できなかった企業はすべて市場から姿を消した。ヤマエ久野はそれを見ながら成長し、流通のほかに複数の事業を選択してきた。主業は卸売業であり、売上に占める構成比は73%だが、利益は30%弱に過ぎない。いわゆる利益なき繁忙だ。その要因は、メーカー(川上)から値上げを求められ、クライアントの小売からは逆に値下げを求められるという構造にある。
物流にかかる経費も小さくない。このため、売上高が2兆円近い大手卸でも経常利益率は0.5%程度に過ぎない。この数値は多くの大手卸に共通する。これが物語るのは、今後本業にはもはや頼れないという現実だ。卸以外の事業戦略にも本格的に取り組むことが必要となっている。
物流の要となるフルフィルメントセンター
ヤマエ久野は大型の物流拠点「熊本物流センター」を建設し、昨年10月から稼働させている。延べ床面積は約7万2,000平方メートル、投資額は134億円。AIを活用した配送管理や自動運搬システムを導入した新型のセンターだ。熊本県内の5カ所のセンターを集約し、熊本だけでなく南九州もカバーする。
企業規模から見ても決して小さくない設備投資だが、今後も同じような投資が必要になる。より先進的な自動倉庫、革新型配送の構築、それを支える人材確保などヤマエ久野が抱える課題は少なくない。
物流倉庫をめぐっては、ロボットとAIを駆使するという革命が起きている。たとえばアマゾンの場合、運搬ロボットが在庫棚の下に入り込み、必要な商品をピッカーに届ける。ロボットが働く倉庫では、人間に必要な空調や照明は不要であり、労務問題も発生しない。既存センターでは不可欠のソーター(仕分け搬送機)も不要だ。そこに必要なのは床の配電だけ。そのため、建設コストだけでなく建設期間も大幅に短縮できる。
アマゾンはそのような物流拠点に、日本では19年だけでも約6,000億円超を投資した。昨年10月までに開設した新設4拠点の床面積の規模は35万平方メートルに達する。東京ドームの7倍を上回る面積だ。
アマゾンは、リアルとネットの壁を壊した最初の大型小売業。書籍のネットに始まり、取扱商品を増やし、リアル店舗を買収、さらに「Amazon Go(アマゾンゴー)」などの新たなリアル店舗を建設している。製造、物流、小売(ネットとリアル)をすべて包含する新たなかたちの小売業の構築だ。そんなアマゾンが目論む先行きは途方もなく大きい。
世界最大の小売業ウォルマートなどの大手小売業も、アマゾンを意識した配送センターとAI化に莫大な投資を始めている。国内に目を向けると、イオンがイギリスの無店舗スーパー企業のOcado(オカド)と提携し、千葉市にネットスーパー専用の大型配送センターの建設を決めた。建築面積は2万7,500平方メートル。生鮮を含め、取扱品目は5万アイテムに上る。本格稼働は23年を予定し、30年にはネットスーパーの売上6,000億円を見込んでいる。
これは、それぞれの本業に周辺事業を取り込む川上から川下までの統合戦略ともいえる。見方を変えれば、メーカー・卸・小売という分業の崩壊の始まりであり、従来とは次元の違う流通革命だ。
イオンもアマゾンも、ヤマエ久野にとって対岸の火事ではない。もはやリテールに垣根はないからだ。これにどう対処するかも卸の重要な生き残り戦略である。
しかし、卸がイオンやウォルマートのようなリアル小売の分野に進出するのは簡単ではない。卸と小売では業務運営の手法が大きく違う。小売は文字通り小さく売るという行為の積み重ねだ。卸の経験則はほぼ役に立たない。それをよく知るだけに実際に卸が直接、小売の世界に乗り出すことは極めてまれ。といっても、生産と小売を結ぶ何らかの戦略が卸に求められていることも間違いない。それを自ら主導するか協業に求めるかは、卸の経営陣にとって大きなテーマでもある。
(つづく)
【神戸 彲】
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