2024年11月22日( 金 )

東芝のキングメーカーになった永山治取締役会議長~迷走を続ける東芝の救世主となるか(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 東芝への唐突なファンドからの買収提案は、わずか1週間で社長退任劇に発展した。東芝の社長交代会見には、会長から社長に復帰した綱川智氏と取締役会議長・永山治氏が出席し、車谷暢昭氏は欠席した。事実上のクビである。市場関係者の視線は、車谷氏に引導を渡し、東芝の名実ともにキングメーカーとなった永山氏に注がれた。

CVC出身の車谷氏と藤森氏の西麻布のワインバーでの密会を「文春砲」がスクープ

「文春砲で炎上する前に逃げ出そう、という判断だろう」

 東芝の車谷暢昭社長の辞任の報に接した市場関係者の間には、こんな憶測が駆け巡った。「文春砲」とは4月14日配信の『週刊文春電子版』に掲載された「東芝取締議長が辞任勧告 東芝社長に疑惑の西麻布密会」という記事。

 東芝に買収提案した英投資ファンド、CVCキャピタル・パートナーズの日本法人に、かつてともに在籍していた車谷氏と東芝社外取締役・藤森義明氏が、西麻布の紹介制ワインバーでしばしば「密会」しており、ガバナンス(企業統治)に甘い車谷氏に対しては東芝の取締役会が4月6日に取締役の辞任を勧告していたことを報じている。このバーにはCVC日本法人の現社長、赤池敦史氏も顏を見せており、3人が同席することもあったという。

 辞任を勧告したのは東芝の社外取締役で取締役会議長・永山治氏(中外製薬名誉会長)であるが、車谷氏は勧告に応じず、次の日の朝、日経新聞の1面トップに「英ファンド、東芝に買収提案へ」の記事が出た。業界では「追いつめられた車谷氏が日経にリークした」という見方が専らだ。

 辞任の勧告を受けた4月6日の晩、西麻布の件のバーで、顔を寄せ合って話し合う車谷氏と藤森氏の姿が目撃されている、と文春は報じた。そして次の日の朝、日経1面にスクープ記事が出た。

 文春は永山氏に突撃取材。CVC出身の車谷氏とCVCの最高顧問の藤森氏が節度を超えた付き合いをしていることが投資家の間で問題視されているとの質問に永山氏はこう答えた。

 あの2人の関係は東芝に入る前からだと聞いています。藤森さんが社外取締役になった後、車谷さんとどんな付き合い方をしていたかは知りません。ただ一般論としては、CEOと社外取締役が節度を超えた付き合いをするのは由々しきことだと思います。私もいくつかの会社で社外取締役をやっていますが、その部分のけじめには十分な注意を払っています。

 一般論としながらも、2人の関係は「由々しきことだ」と断罪している。

永山氏が車谷氏に「あなたがこの買収計画書を書いたのか」と激怒

夜の街 イメージ 永山氏は2020年7月、東芝の社外取締役に就任。取締役会議長や指名委員会委員長を兼務した。

 東芝には昔ながらの会長職があるため、日本語の肩書は取締役会議長であるが、英語ではChairperson of the Board of Directors。取締役会の長、すなわち会長だ。

 東芝取締役会に加わる永山氏は、欧米勢にとって、日本では数少ない欧米仕込みの「プロ経営者」の1人だ。

 昨年の株主総会では、社長・車谷暢昭氏の賛成率が57.36%、社外取締役・藤森義明氏が78.09%にとどまったのに対して、社外取締役候補の永山治氏は97.70%の賛成票と、ほぼ満票に近い支持を得た。海外投資家のコーポレートカバナンス(企業統治)の要に位置する取締役会議長に対する期待にほかならない。

 東芝は委員会設置会社に移行している。委員会設置会社とは、コーポレート・カバナンスを強化し、経営の透明性を高めるために、経営の監督機能と業務執行を分離した会社。社外取締役を中心とした指名委員会、監査委員会、報酬委員会を設置する。指名委員会によって取締役が解任・選任される。

 東芝は指名委員会を牛耳る委員長と、経営の執行役社長の二重の権力構造になった。指名員会委員長は取締役会議長・永山氏。人事権を握ったほうが強い。指名委員会がキングメーカーになったことで、車谷解任は起きた。

 『産経新聞』(4月16日付朝刊)は、関係者の話としてこう報じた。

 CVCの買収計画を初めて協議した取締役会で、永山氏が買収提案書を机にたたきつけ、14日付で辞任した車谷暢昭社長(63)に対し「あなたがこの計画を書いたのか」と強い不快感を表明。今もこの反対方針は変わっていない。

 東芝はCVCから受けている買収提案に反対。CVCは東芝経営陣の賛同を前提としており、肝心の車谷氏が失脚したため、このシナリオが崩れて、手を引くことになる。

 今回の解任劇は、永山氏と、車谷氏の指南役を務めた藤森氏の「プロ経営者」同士の対決だった。車谷氏の「自己保身」のシナリオが墓穴を掘った。藤森氏の完敗である。

 「新たな体制への早期の移行も同時に進めていく」。経営トップの交代を発表する東芝のオンライン会見で、永山氏はこう語った。市場では、定時株主総会で、綱川氏が早期交代し、誰を後継候補にするかに注目が集まった。

(つづく)

【森村 和男】

(中)

関連キーワード

関連記事