園村剛二サンコーホールディングス前社長、経営者を超越した思想家(4)有言実行でピリオド
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半世紀近く福岡のゼネコンの経営者を眺めてきた。しかし、園村剛二氏のような経営者にはお目にかかったことがない。性格が潔い、淡白、気品があるというレベルではないのだ。園村氏の最終的な決断は、経営者というレベルを超えて思想家のレベルに達したと評価できる。福岡にとどまらず、日本全体を俯瞰しても、ゼネコンの経営者で園村氏のように思想家の水準にまで達した逸材は管見の限り知らない。
岩野義弘氏の急逝に衝撃
園村氏は2016年4月、(株)サンコービルドの会長に転じ、社長のポストには仕事の同志である岩野義弘氏にバトンタッチし、次の飛躍に向けた重責を託した。ところが、岩野氏が19年2月にガンに倒れ急逝したのだ。葬儀の席で園村氏は追悼の辞を切々と述べた。筆者は数多くの葬儀に参加してきたが、これだけ同志愛が伝わってくる弔辞を聞いたのは初めてであり、ビジネスの戦友としての強い信頼関係がうかがえた。この企業の人たちの団結心の強さは半端ではない。
最大のビジネスパートナーであった岩野氏の逝去は、園村氏にとって衝撃的であった。「70歳で引退することが会社のためになる。私欲を断つ身の振り方こそが、会社の百年の計になる」と再確認したようだ。
「有言実行」が共通した評価
サンコービルド幹部たちの園村氏に対する評価は、「有言実行、自ら実行してきた」という点で共通する。飯田建設(株)代表取締役の村山雅秀氏は次のように話す。
「川筋気質とは、人の指摘には耳を貸さず信念を貫いていくことと考えられている。ところが一方では、身を退く際には潔く断行するという一面がある。まさしく川筋気質を貫いた引退だ。しかし、若者の世代にはこの川筋気質が薄れてしまったが」。
前号で触れた飯田建設のM&Aについて、サンコービルドが役員会議において議論をしていた際、村山氏は、自分に直接関係しない案件だと思っていたところ、園村氏から「村山君。君が飯田建設に乗り込んで再生してくれ」と命じられた。村山氏は「私は土木に関してはわかりません」と断るつもりだったが、「承知しました」と答えてしまったと振り返る。それほど、園村氏には数多くの恩義を感じていたからである。
村山氏は園村氏と同じ田川市出身で、3学年後輩にあたり、いろいろな部署で園村氏に世話になったという。園村氏の凄さについて次の3点を挙げている。
(1)言い出したことは必ずかたちにする。その分析がことごとく当たるため、尊敬の念が高まる。
(2)褒めるときは徹底的に褒める。怒るときは徹底的に怒る。アフターケアには抜かりがない。
(3)絶対に自分の手柄にしない。方針の土台の大半は園村氏が考えたものだが、担当者の手柄にして徹底的に褒め上げた。村山氏が飯田建設の社長に就任して6年。ようやく業績を回復させた(業績参照)。決算賞与を含めてボーナスを3回支給できた。村山氏は「まずは社員たちとの意思統一までに4年かかった。自分はもうサンコービルドには戻らない、籍を抜いたと社員たちに宣言した。そこから社員たちも仲間と見てくれるようになった。もちろん、給料も減額した」と話す。トップが自ら有言実行の模範を示すことで、社員も共鳴するというお手本だ。さらにこう続ける。
「ここまで到達できたのは、園村会長(当時)の指導のおかげだと思っている。知恵を伝授してくれるが、絶対に表には出ない。『社長が先頭を切って走るだけ』という助言に徹してくれた。園村さんへの恩返しは次の後継者を決めること。目鼻はつけてある。引退までの残り3年間で必ず育成する。現在では、飯田建設に転籍できたことに満足している。この会社を再生させる苦労の過程で、貴重な学びを得ることができた」。
70歳、悠々自適で過ごす
園村氏は今後、どのように過ごすつもりなのだろうか。園村氏は「年金だけでは不安だったから退職金と借金でアパートを建てた。家賃収入が足しになれば少しは気分が楽になる。孫が6人近くに住んでいて、小遣いをあげるのも大変。小遣いをあげられないおじいちゃんには寄り付かない」と苦笑いして語るも、そのにこやかな雰囲気はまさに好々爺だ。3人の娘さんが近くに家庭を築いている。
スイミングクラブに通って体調を整えるのが日課だという。最高の幸せは奥さんとの晩酌。70歳からの人生はまだ先が長い。正直なところ、もったいないというのが筆者の本音だ。
(つづく)
<プロフィール>
園村 剛二(そのむら ごうじ)
1950年6月生まれ、福岡県田川市出身。近畿大学卒、地場建設会社を経て三鉱建設工業(現・サンコービルド)に入社。建設部長、大牟田支店長、本社営業部長、営業本部長、常務取締役を経て09年4月に代表取締役社長に就任。14年2月にサンコーホールディングスを設立し代表取締役に就任、16年4月にサンコービルドの代表取締役会長に就任。21年3月に2社の代表取締役を定年で引退する。関連記事
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