企業倒産を追う「F-Power」~大和証券と経営陣のお家騒動の果て(前)
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福島第一原子力発電所事故から10年。電力業界に大きなインパクトを与えたのが小売全面自由化だ。電力小売は2000年から段階的に大手電力以外にも解禁されてきたが、16年4月には家庭向けの販売も解禁。新電力は大手電力と比べ数%安い電気料金や、特典を武器に拡大。販売量ベースの新電力のシェアは2割近くまで拡大した。電力の小売事業者の登録者数は、16年4月の291社から今年4月25日時点で716社と2.5倍に増えた。競争激化により経営の悪化が予想され、これから淘汰・再編が始まる
安売りと卸電力取引所への依存
新電力大手の(株)F-Power(Fパワー、東京都港区)は3月24日、東京地裁に会社更生法を申請した。申請時の負債は債権者315人に対して464億円。新電力の倒産では、16年4月に破産申請した日本ロジテック(協)の負債162億円を上回り過去最大となる。
Fパワーは09年4月に設立された独立系の新電力事業者。16年の電力全面自由化以降、わずか2年のうちに販売量を2倍に増加させ、18年4~7月には契約電力400万kW以上となり、新電力の首位に立った。
新電力業界では16年間にわたり、NTTや東京ガス、大阪ガスが出資して設立した(株)エネット(東京都港区)が首位の座を維持していたが、Fパワーが猛迫した結果、短期間ながら首位が入れ替わった。
Fパワーは家庭向けを含む低圧電力のシェアは大きくないが、工場などで使われる高圧・特別高圧のシェアは大きい。自治体など公共団体の競争入札で次々と落札しているほか、企業向けについても他社を寄せつけない低料金で乗り換えを提案し、シェアを広げていった。
倒産の背景の1つに、ほかの新電力と比べて一段と安い料金設定がある。それに加え、卸電力所への依存も要因に挙げられる。出資元の投資ファンドが保有する発電所や発電子会社、または大手電力会社からも調達しているものの、販売量が急激に増えたために電源が不足。そこで、日本卸電力取引所(JEPX)からスポット取引で調達する。
卸電力取引所の取引価格は、時期によって「暴騰」することはしばしば。JEPXに依存する新電力の経営に打撃を与える。過去の大赤字は、冬の電力市場価格の高騰による。
インバランス料金が高騰
液化天然ガス(LNG)火力発電所の燃料不足が引き金となり、今冬の電力需給が逼迫。JEPXの価格は、通常は1kW時あたり10~20円で取引されていたのが、1月中旬には一時251円と10倍超に急騰した。
自社の発電設備をもたない新電力の多くは、JEPXを通して大手電力会社から出た余剰電力を調達している。新電力は仕入れコストが膨らんでも、電気料金に仕入れコストを転嫁できない。電気料金を大幅に値上げしたら、解約が相次ぐからだ。新電力は、仕入れコストが電気料金を上回る逆ザヤが発生した。
さらに、インバランス料金の高騰が新電力の経営を圧迫した。インバランスとは、新電力が電力の調達不足に陥った場合に電力会社が穴埋めする仕組み。このインバランス措置によって、電力供給はストップされず、停電などに陥らずに済む。
だが、新電力は後日、不足した電力分の費用を清算金(ペナルティー)として電力会社に支払わなければならない。年始に発生したインバランス料金のペナルティーは3月以降に支払いが到来することから、新電力各社は高騰した調達資金にインバランス料金が重なり、「3月危機説」が唱えられた。
3月5日、ベナルティーの単価が発表された。1月の平均単価は1kW時あたり77円65銭。通常時に比べて10倍を超える高額請求だ。Fパワーは電力会社に支払うインバランス精算が200億円に膨らんだ。
経産省は支払いの分割、政府系金融機関からの融資という救済措置を打ち出していた。これで「3月危機」を乗り越えるはずだったが、Fパワーは高額ペナルティーが判明した時点で自力による再生を断念。救済措置を申し込まずに会社更生法の適用を申請した。
Fパワーに電力を供給していた中国電力は、債権を回収できなくなり、114億円の特別損失を計上。日立造船も45億円の特別損失を計上した。
Fパワーの破綻の引き金になったのは、お家騒動である。
(つづく)
【森村 和男】
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