2024年11月23日( 土 )

【BIS論壇No.346】一帯一路の将来と日本

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 NetIB-Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会会長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。今回は2021年5月18日の記事を紹介。

 コロナ禍以来、中国が注力しているユーラシア~ヨーロッパを中心とする広域経済圏構想「一帯一路」にも支障が生じているように見える。

 5月17日のNHK番組で「一帯一路」特集があり、視聴した。コロナ禍下にもかかわらず、中国のヨーロッパとの「中欧班列」鉄道輸送は拡大を続けている。

 中国の2020年のGDPはコロナ禍下、世界で唯一2%台のプラス。21年も4%台のプラスを維持するとのことだ。これには中国が13年から推進してきた「一帯一路」広域経済圏構想が影響していると思われる。

 しかし、コロナ禍による世界経済、とくに途上国経済への悪影響は大きく、中国が進めている「一帯一路」についてもインド洋への進出を目指すパキスタン~中国の「輸出回廊計画」、象徴的なスリランカの「ハンバントタ港開発」、ギリシア「ピレウス港99年租借」など、現地では一部に「一帯一路」への批判も出始めている。欧米では中国のこれらのプロジェクトについて“Debt Trap”(債務の罠)論を唱えて批判する向きもある。

 しかし、NHK番組で元JETROの大西康雄氏が、今後「一帯一路」推進に関して政府間のみならず「民間企業同士の関与」を促進することが大切だとの意見を述べられたが、一考に値する卓見である。

 筆者としては、合わせてPPP(Public Private Partnership=官民連携)の促進、各国の自治体、地方都市間提携協力、各国のSME(中小企業)協力の促進、新技術開発協力、さらにコロナ後のGreen Revolution(緑の革命)、Digital Transformation(デジタル変革)、Health、Medical Revolution(健康、医療革命)分野での協力に注力することが肝要と思われる。

 さて、日本の20年のGDPは5月18日発表の速報値によると、マイナス4.6%と08年のリーマン・ショックを超える過去最大の落ち込みとのことだ。

 日本経済は平成年代の30年間、衰退を続け、GDP成長率は米国、EU、G7各国よりも低く1%内外で推移。1990年に1位であった世界競争力ランキングは2020年には30年間で34位まで落ち込んだ。デジタル技術では20年には世界63カ国・地域中、後ろから2番目の62位という情けない状態まで後退している(スイスIMD=国際経営開発研究所による)。 

 野口悠紀雄氏は「アベノミクスの期間に日本の凋落が加速した」と指摘(『リープフロッグ』(文春新書))。80年代に先進国の中心産業が製造業から情報通信産業に転換したにもかかわらず、日本の大企業は先見の明がなく、重厚長大産業に固執したことがその大きな原因だ。今こそ「一帯一路」へも積極的に参加。アジアの時代、中央アジア、インド、ASEAN、中国などアジア諸国とのSDGsを含む経済協力拡大に注力すべき時だと思われる。


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)

関連記事