JR西日本のローカル線のあり方(前)
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運輸評論家 堀内 重人 氏
JR西日本の鉄道路線網は、山陽新幹線、近畿地方のアーバンネットワークと呼ばれる在来線、北陸地方や中国地方など近畿圏以外の在来線の3つに大別される。そのなかで大きな課題となっているのが、北陸地方や中国地方のローカル線の維持である。
経費削減を優先した経営方針
10年~15年後を見据えた「長期的視点からの経営構想の構築」として、ローカル線の設備やシステムのダウンサイジング、バスやデュアル・モード・ビークル (DMV) といった輸送モードの転換などが挙がっている。「地域にとって最適なかたちの輸送サービスの提供」が経営の方向性である。
ローカル線問題については、2010年4月5日の定例会見で当時の佐々木隆之社長が「大変重要な経営問題」との見解を示している。同時に「赤字ローカル線の一部を廃止し、バスに転換する方向で検討」と発表した。
事実、18年3月末で広島県の三次と島根県の江津を結ぶ全長108.1kmの三江線が廃止された。JR発足後、本州で初の100kmを超える長大な路線の全線廃止となり、各地に衝撃が走った。
さらに20年8月24日には、当時、北陸地区に140駅があったが、30年度までに無人駅を114駅へ増やす計画を発表するなど、ダウンサイジング化が経営の柱になっている。バス化についても運転手の確保が困難になりつつある状況を加味して、ソフトバンクグループなどと連携し、自動運転によるBRT(Bus Rapid Transit)の開発に取り組む計画である。
「ローカル線の高付加価値化」への発想転換を
筆者は、JR西日本が地方路線の沿線地域振興を目指して、魚介類の養殖や販売など第1次産業へ参入したことや、「SLやまぐち号」に新型の客車を導入したこと、また22年7月に津山線に観光列車を導入する計画があることを認識している。
JR西日本は、自社のフラッグシップトレインである「トワイライトエクスプレス瑞風」を導入したことから、第1次産業へ参入すれば、同トレインの食堂車で自社が供給する食材の提供が可能となる。「地産地消」や「食の安全」という点でも、同社のイメージアップにつながることはたしかである。
だが、全体を見ると、JR西日本のローカル線に対する経営施策は、ダウンサイジングが顕著であると言わざるを得ない。たしかに、ローカル線沿線の過疎化の進展や、少子高齢化による通勤・通学需要の減少に加え、モータリゼーションの普及や中心市街地の空洞化などもあり、大幅に需要を増やすことが難しい経営環境にあることも事実である。
それでも発想を変えれば、需要は大幅に増えないかもしれないが、「ローカル線の高付加価値化」という経営戦略を採用する方法もある。
沿線の人口が増えないのであれば、ほかの地域から「観光客」というかたちでローカル線へ誘客する方法もある。山口線では「SLやまぐち号」が運転され、木次線では「奥出雲おろち号」という観光列車が運転されるなど、「観光」をキーワードにしたローカル線の活性化が推進されている。
観光列車は速達性が要求されることもなく、ローカル線のもつ「車窓が素晴らしい」ことはプラスに働く。そのうえ、列車に魅力があればリピーターを確保でき、各種グッズの開発・販売などによってロイヤリティー収入が期待できるなど、従来の運賃だけに依存した収益構造から脱却できる。
また、JR西日本は経費削減を優先して経営しているため、自分で自分の首を絞めている面も否めない。ローカル線のなかには、6~7時間に1本程度の運行頻度の路線も見られる。18年3月末に廃止された三江線は、まさしくそのような状況だった。現在もっとも輸送密度が低いといわれる芸備線の備後落合~東城間も、6~7時間に1本の運行頻度である。これでは利用したくても、利用することができない。
(つづく)
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