2024年11月22日( 金 )

【論点】「LGBT理解増進法」が浮き彫りにしたもの 取り残される日本

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 今国会での成立を目指して提案された「性的指向および性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する法案(以下、LGBT理解増進法)」が24日、自民党の会合で条件つき承認となった。多様性を掲げたオリンピック開催を前に多発するジェンダー問題をどのように解決していくべきなのか。

自民党議員によるLGBTへの差別発言

 LGBT()理解増進法は20日の自民党会合で一度承認が見送られたものの、24日の会合で政調審議会などでの議論を条件に了承された。ここまで法案の了承が先延ばしにされた背景には、自民党議員から「慎重な」意見が上がっていることがある。

 しかし、その意見こそ、「LGBTは〈種の保存〉に背くもの」「道徳的に認められない」などといった、異性愛・シスジェンダー(性自認が生まれたときの性別と一致している性)を前提とする「差別発言」に他ならない。これらに対してSNSを中心に、「それでは、子どもを産まない人・産めない人や高齢者も要らないということか」など、批判の声が挙がっている。

 ここで踏まえなければならないのは、社会的にジェンダー平等の実現を是とすることが世界的潮流となっているという現実だ。たとえばオリンピック憲章には、

「人種、肌の色、性別、性的指向、言語、 宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会的な出身、財産、出自やその他の身分などの理由による、いかなる種類の差別も受けることなく、確実に享受されなければならない。」

 という一文がある。開催国はその達成に努めなければならず、さらに国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)にも「ジェンダー平等を実現する」という目標が定められており、人種や信仰による差別の根絶と並んで「性的指向・性自認」による差別は許されないとする理念は、国際社会ではもはや常識といっていい。

 ジェンダーは生まれたときに判定される性別ではなく、社会や文化のなかで割り当てられる性別とされる。これまで、性的指向・性自認について定めた理念法のなかった日本がジェンダー平等実現に向け一歩踏み出した矢先、議員の発言によって改めて根深い差別意識が存在することを露呈したかたちだ。

※註= 性自認・性的指向においてマイノリティーとなるレズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)を指す。現在では「LGBTQ+」とも表され、無限に存在するセクシュアリティーすべてを補う。^

「理解増進法」に足りないもの

 今回議論されているLGBT理解増進法は、最初の提案時に批判の声が相次いだため、一度加筆修正されていた。修正の際に与党は、法案目的と基本理念に「性的指向および性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下」という文言の加筆を行っている。

 当初の理解増進法が反発を受けたのは、「基礎知識を広げることによって国民理解を促進すること」が最終目的となっており、その規定に「差別禁止」が明記されていなかったためだ。この法案では国民の理解が広がったかどうかを計るものさしがないため具体的な施策の導入にまで至らず、「お題目」に終わる可能性があった。

 関心の高い同性婚合法化にも影響がおよぶとされ、場合によっては「まだ理解が進んでいないから制定できない」という逃げ道をつくってしまうため、理解増進法がむしろ妨げとなることも危惧されていた。

賛成派の意見にも反対派の意見にも耳を傾けて

 理解増進法をめぐる一連の動きについてLGBT当事者のOさんは、「賛成であれ反対であれ、意見をいうこと自体を否定してはいけないと思います。それ(意見を述べることへの非難)は今まで私たち(LGBT当事者)がされてきたことですから。もちろん、根拠が間違っていれば指摘する必要がありますが、意見をもつことはすべての人が持つ権利です」と、賛成派と反対派双方の意見に耳を傾けることが重要という見方を示す。そのうえで、「法律を議論し、方向性を決める国会議員を選んだのは私たち国民です。自分の意見が反映されるよう、意思表示としての投票をするよう心掛けてほしい」と話す。

 今回の法案について社会学が専門の西南学院大学外国語学部准教授・山元里美氏は次のように語る。

「国民の理解増進では不十分で、現場に落とし込めないのが目に見えています。法案に何らかの努力義務かペナルティーを盛り込むのが望ましい。理解増進とは具体的に何なのか。職場の場合、従業員にLGBTQに係る研修会を開催しただけでLGBTQの理解を増進したと企業は主張できる。つまり、雇用機会の不平等を解消できるわけではない」
「同性婚というターム(専門用語)はキャッチーなのでよく利用されるが、今回は雇用機会平等を求めるだけに留め、段階を踏んでさらなる平等権を求める戦略がよいのではないか。LGBTQ側の主張が盛りだくさんすぎると、論点が点在するので足元をすくわれる可能性がある」。

 多様性を尊重するオリンピックを開催する国として日本はふさわしいのか。日本のジェンダー平等に対する向き合い方がいま、世界から注目されている。

【杉町 彩紗】

関連キーワード

関連記事