サッカーJ1リーグ・アビスパ福岡は16日、アウェーの栃木県グリーンスタジアムでYBCルヴァンカップ2回戦の栃木SC戦を行った。
ルヴァンカップはJ1、J2、J3の全60クラブがトーナメント形式で戦うカップ戦。J1リーグ、天皇杯と並び、日本サッカー3大タイトルの1つに数えられる。アビスパ福岡は2023年大会で優勝し、クラブ史上初めてのタイトルを獲得した。ファーストラウンド1回戦でFC琉球(J3)を下したアビスパの次の相手は、J3の栃木SC。栃木は1回戦で格上のJ2ベガルタ仙台をPK戦で破った、勝負強いチームだ。
試合は突然のハプニングから始まった。先発メンバーに名を連ねていたFWナッシム・ベン・カリファがウォーミングアップ中のアクシデントで先発を外れ、代わりに宮崎産業経営大学在学中の21歳、FW佐藤颯之介がメンバー入り。佐藤は2026年シーズンのアビスパ加入が内定しており、また日本サッカー協会が定める特別指定選手としてJリーグなどの試合に出場可能となっている。アビスパでは23年にMF重見柾斗、24年にDF橋本悠が福岡大学在学中に特別指定選手となり、後にアビスパに加入をはたしている。なお、重見と橋本は、この日の栃木戦で先発出場している。
この佐藤がいきなり大仕事をやり遂げたのだから驚きだ。4分、相手ゴール前でFWウェリントンが競ったボールをFW金森健志がつなぎ、再びウェリントンへ。ウェリントンが左にボールを送ると、そこで待ち受けていたFW佐藤がゴール右上隅に吸い込まれる美しいカーブシュートを放つ。これが佐藤のプロ初ゴール、そして先制点となった。佐藤は昨年の九州大学リーグで32ゴール(うちPK2ゴール。チーム総得点は81)、14アシストを挙げたストライカー。その実力を、いきなり訪れたプロデビューの機会に最高のかたちで証明してみせた。
試合はその後もアビスパのペースで進む。FWウェリントン、FW金森のシュートが次々に栃木ゴールに襲いかかるが、ゴールを割るには至らない。鋭く速いプレス、安定したパス回しで完全に試合を支配したアビスパだが、追加点は奪えないまま前半を終えた。
後半に入ると、栃木SCがじわじわと反攻に出る。そこで異彩を放ったのが、61分に交代出場した栃木FW川名連介だ。川名は2024年に栃木に加入し、リーグ戦13試合出場1得点。今シーズンもここまでリーグ戦7試合に出場している。
川名の魅力は左サイドからのドリブル突破。独特なリズムを刻む川名のドリブルが最も光ったのが、71分のシーンだ。左サイドでパスを受けた川名は、一気に縦に進出する。対応したDF田代雅也に目もくれず、一息でエリア内に切り込んだ川名は左足で高速のグラウンダークロス。これをFW屋宜和真が倒れこみながら押し込み、栃木が同点に追いつく。
これでスタジアムの雰囲気は一変し、栃木が押せ押せの雰囲気になる。金明輝監督はすかさず手を打ち、72分にFW紺野和也とFWシャハブ・ザヘディ、76分にはMF見木友哉とMF松岡大起をピッチに送り込む。両チームとも守りに入らず、ゴールを狙い続ける激しい攻防が続いていく。
そして、この試合を決定づけたのが1つの「ミス」への対応だった。81分、栃木の最終ラインがバックパス。これを受けるのがGKなのかDFなのか、一瞬あいまいになったそのとき、誰よりも速くボールに追いついたのがFW紺野だった。紺野が右足ダイレクトで放ったシュートはGKの股間を抜き、これが決勝点。試合後の記者会見で、栃木の小林伸二監督が「カテゴリーが上のチームとの対戦では、ミスをしたら即失点につながる」と悔やんだように、おそらく同じJ3同士ならミスにもならないプレーでも、J1基準なら決勝点の引き金になる。今やJ1に定着したアビスパが、そのクオリティで勝ち取った勝ち越し点だった。
試合はこのまま終了。ルヴァンカップはファーストラウンド3回戦に進み、アビスパの相手はJ1名古屋グランパスを下したJ2カターレ富山だ。
またこの日、アジアチャンピオンズリーグやクラブワールドカップに参加するチームのJ1リーグ戦が行われた。この結果、アビスパは引き続きリーグ戦1位で、週末の試合を迎えることになった。次節は20日、アウェーの清水エスパルス戦。25日にはホームのベスト電器スタジアムにJ1初昇格をはたしたファジアーノ岡山を迎える。今、もっとも強く面白いアビスパのサッカーを、ぜひスタジアムで目撃しよう。
【深水央】