2024年11月05日( 火 )

老化は確実に進む(4)「70歳老人」照ノ富士が4回目の優勝

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「白鵬・照ノ富士二強横綱時代到来」と期待したものの

 2014年3月の幕内昇進時から注目を浴びていた照ノ富士が15年3月に新関脇へと躍進した際には「これは本物だ」と筆者は唸った。心底、「強い」と確信した。白鵬戦で一挙に土俵の外へ寄り切った相撲を目の当たりにして「白鵬・照ノ富士二強横綱時代が到来」と予感した。その当時、白鵬があまりにも強く、大相撲はまったく面白くなかったが、そこに鼻っ柱が強い照ノ富士が出現し、頼もしく映った。

 ところがどうしたことであろう。大関に昇進したのであるが、完全に精彩を失ってしまった。原因は病気と怪我である。暴飲暴食がたたって糖尿病が悪化し、闘争精神が萎えて体がだるくなっていた。両膝を怪我で痛めたことにより、守りの局面で粘りを発揮することができなくなっていた。そのため、2年4カ月大関を張っていたが、陥落してしまった。しかし、十両に陥落するまでには復活するであろうという期待感をもっていた。

 ところが18年7月場所での幕下陥落を耳にした際に「あぁ、これで終わったな。いつ引退するのか」ということにしか関心がなくなった。ファンの移り気と思われるかもしれないが、批判される筋合いもないだろう。聞くところによると、本人も「もう廃業したい」と親方にたびたび申し出だそうだ。しかし、親方はその度に「病気、怪我を直せば必ず復活できる」と激励してきた。まさに親方の予測通り、大関再昇進をはたしたのである。

70歳老人の体には時間は残されていない

 再昇進をはたすまでには、体調を回復させるため人にはいえないほどの苦しい努力を自身に強いてきたのであろう。糖尿病の悪化を食い止め、両膝を鍛え直すことができるようになったことで照ノ富士の相撲の強さが戻ってきた。序二段陥落というどん底から2年2カ月で大関への再昇進をはたしたのである。100人分の苦労を重ねたことで人間的にも成長を遂げている。「周囲の方々のご支援、ご助言があってこそ復活できた」という言葉が口癖になっている。

 本人も自分の体の現実を十分に理解している。「相撲を取れる時間はもう僅かしかない。短期間で勝負をかけるしかない」と漏らす。つまり、一般人に置き換えて言うならば「ボロボロになった70歳の老人の体と同じ」ということを意味している。千秋楽の本割の勝負を思い出していただきたい。相手の叩きを受け土俵中央部に倒れた。懸念されたリスクが露呈されたのである。15日間の相撲取り組みで疲労が満載していて、それで脆くなっていたということだ。決定戦の勝利は勝負への魂を丸出しにして執念でもぎ取ったものであった。

 照ノ富士も21年7月場所が綱取りの最後の勝負という覚悟をしているはずだ。横綱昇進基準の「大関での2場所連続優勝」達成で誰にも文句を言わせずに栄冠を勝ち取れ!そうなれば白鵬も安心して引退できるであろう。冷静に先を占えば、照ノ富士が綱を張れる時期は3年もないだろう。せめて幕内優勝10回の勲章を得て相撲界の歴史に【奇跡の復活をはたした横綱・照ノ富士】と名を残していただきたい。

■プロフィール

照ノ富士 春雄(てるのふじ・はるお)は、モンゴル・ウランバートル出身の大相撲力士。
本名は「ガントルガ・ガンエルデネ」。1991年11月29日生まれ。身長192cm、体重177kg。

<各段優勝>
2021年5月場所終了現在
幕内最高優勝:4回(2015年5月場所、2020年7月場所、2021年3月場所、5月場所)
幕内最高優勝同点:3回(歴代5位タイ)
十両優勝:2回(2013年9月場所、2020年1月場所)
幕下優勝:1回(2019年11月場所)

<連勝記録>
2021年5月場所終了現在
最多連勝記録は、20連勝。幕下(全勝優勝)と十両(13勝2敗・優勝)。

<略歴>
•    2011年5月技量審査場所:初土俵
•    2011年7月場所:序ノ口
•    2011年9月場所:序二段
•    2011年11月場所:三段目
•    2012年1月場所:幕下
•    2013年9月場所:十両
•    2014年3月場所:幕内
•    2015年3月場所:新関脇(新三役)
•    2015年7月場所:新大関
•    2017年11月場所:関脇に陥落
•    2018年3月場所:十両に陥落
•    2018年7月場所:幕下に陥落
•    2018年11月場所:三段目に陥落
•    2019年3月場所:序二段に陥落
•    2019年5月場所:三段目再昇進
•    2019年7月場所:幕下再昇進
•    2020年1月場所:十両再昇進(関取復帰)
•    2020年7月場所:幕内再昇進
•    2020年11月場所:返り三役(新小結)
•    2021年1月場所:関脇再昇進
•    2021年5月場所:大関再昇進(大関復帰)

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