日台のビジネスマッチングをサポート、海外事業で台湾企業との連携を(後)
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台湾貿易センター福岡事務所長 林 志鴻 氏
台湾経済部(経済産業省に相当)と業界団体の支援により設立された非営利の貿易振興機構「台湾貿易センター(中華民国対外貿易発展協会、TAITRA)」。その福岡事務所は40年以上にわたり、九州7県、山口県、沖縄県で日台企業のビジネスマッチングをサポートしている。コロナ禍で往来が制限されるなか、日本企業は今後の成長のために台湾の企業・産業をどう向き合っていくべきか。林志鴻・福岡事務所長に話を聞いた。
意思決定の速い台湾企業とのアライアンスを
――今年の台湾経済の展望と、期待される政策分野や産業についてお聞かせください。
林 中華経済研究院(民間シンクタンク)によると、台湾の20年のGDP成長率は3.11%、21年の成長率予想値は4.8%と、コロナ禍でも非常に好調です。また、21年は輸出も5.05%の成長率を見込んでいます。とくにコロナ禍における「リモート」関連のビジネスチャンス、いわゆるICT関連製品が大いに期待されています。
台湾では「5+2」イノベーション政策を推進し、IoT(アジアシリコンバレー)、スマートロボティクス、グリーンエネルギー、バイオ・医療、国防(航空宇宙)、新農業、循環経済の7分野に力を入れ、既存産業の付加価値向上、新産業の育成を図ってきました。これに加え、20年5月には情報通信・デジタル産業、第5世代(5G)移動通信システム・情報セキュリティー産業、バイオ・医療産業、国防産業、再生可能エネルギー産業、民生関連産業の6産業を「核心戦略産業」と位置づけ、6産業の振興を通じて台湾経済の底上げを目指す政策を発表しました。このうち5G、グリーンエネルギー、半導体はとくに投資誘致において重視されており、19年1月1日から21年4月9日までの期間に1兆2,041億台湾ドル(約4兆6,800万円)の投資が行われ、10万人の雇用を生んでいます。
このほか、台湾政府は19年から、中国に投資した台湾企業の「台湾回帰」を後押しする政策をとっています。低金利での融資、工業団地内の工場用地を2年間無料で提供するなど具体的なインセンティブを打ち出し、多くの企業がこの制度を利用して台湾回帰をはたしています。なかでもデルタ電子は台湾に生産、R&D、デザインの拠点を立ち上げるために18億米ドル(約1,960億円)の投資を行いました。台湾政府は将来的にICT、自動車部品、自転車などの基幹産業のハイスペック製品サプライチェーンを台湾国内に再構築する構想をもっています。
――コロナ禍でも台湾と中国は経済が比較的好調であり、台湾経済にとって中国のプレゼンスがより高まっているということはないのでしょうか。そのなかで3月からパイナップルの中国への輸出が禁止になりました。
林 台湾パイナップルの日本輸出促進のため、当センターでは4月に2度「パイナップル及び加工品オンライン調達商談会」を開催しました。九州の企業にも参加していただき、うれしく思っています。以前よりも日本のデパートやスーパーで台湾パイナップルを目にすることが増えたのは、日本の消費者や企業がサポートしてくれたおかげであり、お礼を申し上げます。
コロナ禍の影響で、一部の日本企業に製品の調達先を中国企業から台湾企業へ変更しようとする動きが見られます。今すぐにではなく将来的な可能性としての相談も多いですが、複数の日本企業から相談を受けています。当センターでは、台湾の競争力のある優良サプライヤーを紹介できるチャンスと捉え、これを機に日本への新たなサプライチェーンを構築できることを期待しています。
――日本が注目すべき台湾企業の特徴や産業は?
林 世界各国がマスクや防護服などの不足に悩むなか、台湾は20年に「ナショナルチーム」を編成して政府主導によりマスクと防護服の製造に注力し、アメリカ、ヨーロッパ、日本など海外に輸出しました。意思決定の速い台湾企業のなかには異業種から新規参入し、マスクや防護服の製造へと事業を拡大した企業もあります。台湾企業、とくに中小企業の特徴は、このような「意思決定のスピード」「失敗を恐れないチャレンジ精神」です。日本企業には、台湾企業のこのような特徴を生かしたビジネスアライアンス(例:新製品開発、台湾企業への製造委託)を展開し、台湾企業とともに発展していくことを期待しています。
コロナに関わりなく、台湾の社会的ニーズを鑑みて、今後は日本企業による介護産業への投資に対する期待が高まっていくと思います。老人介護施設運営といった台湾の介護産業は、日本の進んだノウハウを必要としています。また、「日本式」を取り入れることで差別化を図るという思惑もあります。
九州と台湾の半導体産業はWin-Winの関係
――台湾の半導体産業など主要産業と九州のメーカーとの関係について教えてください。
林 産業全体の概況を見ると、九州と台湾の半導体産業はWin-Winのパートナーシップを結んでおり、お互いになくてはならない存在だといえるでしょう。
19年の九州から台湾への輸出品目のうち「半導体等製造装置」は輸出額324億円、構成比9.5%(対台湾輸出品目第2位)、「半導体等電子部品」は輸出額279億円、構成比8.2%(同第3位)でした。「半導体関連製品」としてひとくくりにすると、輸出額603億円、構成比17.7%になります。逆に19年の台湾から九州への輸入品目のうち「半導体等電子部品」は1,732億円、構成比62.3%(対台湾輸入品目第1位)でした。なお、九州から台湾への輸出品目で最も多いのは「自動車」で、輸出額659億円、構成比19.3%となっています(九州経済産業局『九州経済国際化データ2020【貿易編】』)。
――日本企業に知ってもらいたい台湾の産業・市場の魅力について教えてください。
林 台湾は非常に親日的で、日本と文化的に近い部分もたくさんあります。コロナ禍で日本と台湾も往来が困難な状況にありますが、近しい友人であることに変わりはありません。ともに、コロナ禍というピンチをチャンスに変えましょうと提唱しています。
台湾は半導体、ICT、EV(電動自動車)、医療機器など最先端産業に注力しているだけでなく、競争力のある産業は自動車部品、自転車、食品など多岐にわたっています。また、台湾企業は早くからASEANなど第三国市場に投資しており、すでに現地で確固たる地位とサプライチェーンを構築しているため、日本企業の第三国ビジネスにおいても最良のパートナーとなり得ます。
「台湾企業からこんな製品を調達できないか」「台湾企業にこんな製品をOEMできないか」「台湾企業とともに台湾、中国、ひいては第三国でビジネス展開できないか」など、台湾企業とのビジネスをお考えの企業の皆さまは、お気軽に台湾貿易センターまでお問い合わせください。
新型コロナウイルスとの戦いはまだしばらく続くでしょう。現在、当センターが推進しているオンライン商談とオンラインセミナーを通して、九州・山口県・沖縄県の企業の皆さまに台湾企業と台湾製品についてより多く知ってもらい、気軽に活用してもらいたいと思っています。そのためにも、福岡事務所のプレゼンス向上に職員が一丸となって努力していきます。
(了)
【茅野 雅弘】
<OFFICE INFORMATION>
代 表:林 志鴻(福岡事務所)
所在地:福岡市博多区博多駅前2-9-28(福岡事務所)
設 立:1980年(本部は1970年)
<プロフィール>
林 志鴻(りん・しこう)
1970年生まれ、台湾高雄市出身。国立交通大学(現・国立陽明交通大学)卒、国立中興大学でEMBA修士。エバー航空、彰化県職員などを経て、2004年に台湾貿易センターへ。17年1月に大阪事務所長、20年11月から福岡事務所長を兼務。関連記事
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