2024年11月22日( 金 )

【ラスト50kmの攻防(24)】色違いの染み “地域エゴ”批判をどう跳ね返すのか

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 未着工の西九州新幹線「新鳥栖―武雄温泉」間で、与党西九州小委も、佐賀県も、並行在来線の維持は譲れない一線だ。5月31日、意を汲んだ国交省は経営主体のJR九州を交えた並行在来線の3者協議を佐賀県に提案した。

 並行在来線は、フル規格整備が決まった段階で在来特急の旅客が新幹線にどれだけ移るかの推測値を基に、JR九州が対象区間を「認定」して協議が始まる。それを“前倒し提案”すること自体が極めて異例だった。

 ところが、佐賀県側は「フル規格を望んでいないのに、フルになったときの在来線のことを協議するのはあり得ない」(山下宗人地域交流部長)と一蹴。博多―佐賀は在来特急が1日上下82本、往復切符の特急料金は普通列車並み、所要時間は40分程度。新大阪駅に直通できる新鳥栖駅がある――などと指摘。西九州ルートがなくても利便性は確保できているとした。

 その主張はうなずける点も少なくない。ただ整備新幹線5線のうち未着工は北陸・敦賀―新大阪、新鳥栖―武雄温泉の2区間。敦賀―新大阪は環境アセスに進んだ。新鳥栖―武雄温泉は全国の新幹線網上で“色違いの染み”のように見えなくもない。

 来秋、武雄温泉―長崎が着工後14年半で開業。新幹線の乗客が武雄温泉で乗り換える姿が日常になる。九州新幹線は新八代での乗り換えが7年間続いた。西九州新幹線は乗り換え解消のメドが立つのか、立たないのか。佐賀特有の都合だけでは“地域エゴ”と批判されかねない。

中央合同庁舎3号館 佐賀県庁舎
中央合同庁舎3号館 佐賀県庁舎

 一方、フル規格整備の財源スキームは、JR財源(既存新幹線を経営する関係JRが国に支払う使用料)と公共事業費の組み合わせ。公共事業費は国と地域が2対1の比率で負担する。新鳥栖―武雄温泉は、今の想定ルートは全区間が佐賀県内のため、地域負担は県(駅所在地は市町も)がそっくりかぶる。負担が重いため、与党西九州小委はJR財源の増額や佐賀県への地方交付税のかさ上げ配分を想定する。このうちJR財源は、新鳥栖―武雄温泉の開業後に、関係JR各社の収支改善効果がどの程度見込めるかを仮定した試算値。コロナ禍で経営が苦しいJR各社が、既設新幹線の使用料支払いの増額をどこまで受け入れるか。大都市圏を営業エリアに抱える関係JRの反発が予想される。また交付税のかさ上げ配分も、総務省は現時点で「ほかの自治体との均衡が保てない」と渋る。

 今後、西九州小委は検討の方向性をさらに詰め、6月16日の国会閉会前に与党PTに検討結果を報告する。地元では佐賀県議会の6月定例会が15日開会、7月5日閉会の日程。フル規格協議の推進に舵を切った最大会派の自民党県議団が、山口祥義知事との論戦で、山口氏の“真意”をどこまで引き出せるか。8月末は来年度予算案に対する概算要求の締め切り。次期総選挙とも絡まって予断を許さない状況が続く。

【南里 秀之】

▼関連リンク
【ラスト50kmの攻防(1)】長崎新幹線〈新鳥栖―武雄温泉〉の周辺を探る
【ラスト50kmの攻防(2)】〈長崎ルート〉は停滞、描けないまちづくり
【ラスト50kmの攻防(3)】国は「決められないなら後回し」 佐賀県と溝
【ラスト50kmの攻防(4)】「武雄温泉-長崎」開業は22年度 焦り隠せぬ検討委
【ラスト50kmの攻防(5)】六者合意の「終着」点見えず FGT導入でも溝
【ラスト50kmの攻防(6)】活発化する長崎県の動き 佐賀県知事は「不快」感あらわ
【ラスト50kmの攻防(7)】佐賀県議会・新幹線対策特別委始まる 国交省鉄道局次長などを参考人招致
【ラスト50kmの攻防(8)】「これ以上はFGT開発に予算と時間を割けない」 FGT断念、国交省ひたすら陳謝
【ラスト50kmの攻防(9)】国体は良くて、「新幹線はダメ」の根拠は? 「佐賀国体」会場に540億円
【ラスト50kmの攻防(10)】新旧知事の”判断”  山口知事は地域の〈光と影〉を懸念
【ラスト50kmの攻防(11)】〈広報〉と〈情報公開〉 突然“消えた”データ
【ラスト50kmの攻防(12)】武雄温泉―長崎が22年秋開業 整備議論に「総選挙」も影響
【ラスト50kmの攻防(13)】不十分な「採算性」論議 特急『みどり』『ハウステンボス』の行方は
【ラスト50kmの攻防(14)】フル規格開業のメリットは長崎県、費用負担は佐賀県 予算編成“終着駅”はどこに
【ラスト50kmの攻防(15)】長崎ルート全線開業の機運加速 両県関係者が意見交換会
【ラスト50kmの攻防(16)】並行在来線の協議は経営分離前提にせず JR九州
【ラスト50kmの攻防(17)】膨らむ建設費 財源をめぐる綱引き
【ラスト50kmの攻防(18)】国費増の壁を崩さず
【ラスト50kmの攻防(19)】“板挟み”の武雄市と嬉野市でフル規格推進の県民会議
【ラスト50kmの攻防(20)】フル規格ルートの絞り込み始まる
【ラスト50kmの攻防(21)】長崎ルートの全線フル規格開業目指す 佐賀県民会議総会
【ラスト50kmの攻防(22)】未着工の「新鳥栖―武雄温泉間」ルートは佐賀駅経由が適当 与党検討委
【ラスト50kmの攻防(23)】急浮上した「佐賀空港ルート」 福岡市・金融センター構想が後押し?

(23)
(25)

関連記事