【ラスト50kmの攻防(24)】色違いの染み “地域エゴ”批判をどう跳ね返すのか
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未着工の西九州新幹線「新鳥栖―武雄温泉」間で、与党西九州小委も、佐賀県も、並行在来線の維持は譲れない一線だ。5月31日、意を汲んだ国交省は経営主体のJR九州を交えた並行在来線の3者協議を佐賀県に提案した。
並行在来線は、フル規格整備が決まった段階で在来特急の旅客が新幹線にどれだけ移るかの推測値を基に、JR九州が対象区間を「認定」して協議が始まる。それを“前倒し提案”すること自体が極めて異例だった。
ところが、佐賀県側は「フル規格を望んでいないのに、フルになったときの在来線のことを協議するのはあり得ない」(山下宗人地域交流部長)と一蹴。博多―佐賀は在来特急が1日上下82本、往復切符の特急料金は普通列車並み、所要時間は40分程度。新大阪駅に直通できる新鳥栖駅がある――などと指摘。西九州ルートがなくても利便性は確保できているとした。
その主張はうなずける点も少なくない。ただ整備新幹線5線のうち未着工は北陸・敦賀―新大阪、新鳥栖―武雄温泉の2区間。敦賀―新大阪は環境アセスに進んだ。新鳥栖―武雄温泉は全国の新幹線網上で“色違いの染み”のように見えなくもない。
来秋、武雄温泉―長崎が着工後14年半で開業。新幹線の乗客が武雄温泉で乗り換える姿が日常になる。九州新幹線は新八代での乗り換えが7年間続いた。西九州新幹線は乗り換え解消のメドが立つのか、立たないのか。佐賀特有の都合だけでは“地域エゴ”と批判されかねない。
一方、フル規格整備の財源スキームは、JR財源(既存新幹線を経営する関係JRが国に支払う使用料)と公共事業費の組み合わせ。公共事業費は国と地域が2対1の比率で負担する。新鳥栖―武雄温泉は、今の想定ルートは全区間が佐賀県内のため、地域負担は県(駅所在地は市町も)がそっくりかぶる。負担が重いため、与党西九州小委はJR財源の増額や佐賀県への地方交付税のかさ上げ配分を想定する。このうちJR財源は、新鳥栖―武雄温泉の開業後に、関係JR各社の収支改善効果がどの程度見込めるかを仮定した試算値。コロナ禍で経営が苦しいJR各社が、既設新幹線の使用料支払いの増額をどこまで受け入れるか。大都市圏を営業エリアに抱える関係JRの反発が予想される。また交付税のかさ上げ配分も、総務省は現時点で「ほかの自治体との均衡が保てない」と渋る。
今後、西九州小委は検討の方向性をさらに詰め、6月16日の国会閉会前に与党PTに検討結果を報告する。地元では佐賀県議会の6月定例会が15日開会、7月5日閉会の日程。フル規格協議の推進に舵を切った最大会派の自民党県議団が、山口祥義知事との論戦で、山口氏の“真意”をどこまで引き出せるか。8月末は来年度予算案に対する概算要求の締め切り。次期総選挙とも絡まって予断を許さない状況が続く。
【南里 秀之】
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