国鉄分割民営化の制度の再設計(後)
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運輸評論家 堀内 重人 氏
国鉄の分割民営化が実施されてから34年が経過するが、20年をすぎた辺りから、JR北海道の事故の多発や不祥事などの問題が顕在化し、完全に制度が疲労している。コロナウイルスが終息したとしても、元通りに旅客需要が戻ることは難しく、これを契機に制度の再設計が必要だ。
「配当」優先の見直しを
完全民営化により、利用者よりも株主の方を向いた経営を実施するようになり、株主はすぐに「配当」を要求する。とくに、近年では外国人投資家がJRの株を購入する傾向が強いため、筆者は好ましくないと考えている。
外国人投資家は、「配当」だけを求めて株を購入し、利用者へのサービス向上や地域づくり、社員の待遇改善に関心がなく、ただ単に「配当」だけを要求する。
やはり本州3社だけでなく、JR九州に関しても、株式の51%以上は政府が保有するようにし、利益が出た場合は「配当」を優先するのではなく、利用者に還元したり、社員の待遇改善に回すようにする必要がある。政府の株式の保有比率を高めるには、市場に出回っている株式を回収する方法もあるが、増資を行って政府が購入する方法が良いだろう。
その際、並行在来線の運行する会社は、元のJR旅客会社が運行することにするが、インフラ部分は、各県が所有するかたちで「公有民営」の上下分離経営を、実施するようにしたい。
JR鉄道事業を「公社化」
最終的には、JR各社は全国一律の「公社」となるのが望ましいと考える。宇沢弘文氏が、「社会的共通資本」という概念を提唱されたが、鉄道などの社会インフラは、市場原理を導入することに適さない分野である。諸外国では、「独立採算」などは成立せず、何らかのかたちで公的関与を受けながら運営されているのが実情であるが、我が国は国土が狭い割には人口密度が高く、鉄道が持つ大量・高速輸送という特性が発揮できた国であったため、独立採算を原則として、経営が成立した。
今後は、少子高齢化の進展や人口減少、テレワークの普及などで、私たちのライフスタイルが大きく変わることが予想され、独立採算で鉄道事業を維持することが難しくなる。そうなれば民間人や国も株主になるかたちで、「公社化」することを模索せざるを得ない。国鉄も公社であったが、完全に国が所有する方法で、中途半端なかたちで事業性も入れたため、官の悪い所と民の悪い所が、目立ってしまった。
事業に関しては、営利追及を目指すが、安全性やナショナルミニマム(※)の維持などの社会性に対して、国が関与するというかたちで、役割を明確にして公社化すれば、旧国鉄のような弊害が生じにくく、国鉄分割民営化で生じた「輸送の分断」という負の要素は、解消される方向に向かうように感じる。
(了)
※:国が国民に保障する最低限の生活を営むために必要な水準。
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