2024年11月25日( 月 )

【IR福岡誘致開発特別連載43】香港からの金融資産流出規制と中華系IRカジノ企業

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 主要7カ国首脳会議(G7サミット)の開催後、米国バイデン政権主導の下、自由主義諸国が一体となり、さまざまな制限措置を中国に課している。これに対し、中国政府は真っ向から対抗措置をとっている。

 筆者は、米中覇権争いによる日米経済安全保障に絡むIR事業の誘致開発について、香港・マカオに拠点を置く中華系カジノ企業に参画するチャンスは一切ないと説明してきた。

 具体的には、IR横浜のメルコリゾーツ&エンターテインメント、IR長崎のOshidori International Development、先日撤退した横浜のギャラクシー・エンターテインメントと和歌山のサンシティグループホールディングスジャパンなどを指している。

 習近平政権の強権的な統制を嫌い、昨年6月の香港国家安全維持法の施行以降、すでに約4兆円規模の巨額マネーが香港から海外へ流出したと報じられている。

 これに危機感をもつ中国共産党は、今年初めに強い規制を打ち出し、香港からのすべての金融資産の海外流出に歯止めをかけようとしたが、実際の効果は薄く、より実効的な規制の実施に躍起になっている(ただし、中国政府は認めていない)。

マカオ イメージ 米国のIR企業関係者に香港・マカオの状況について尋ねたところ、習近平政権は私たちの想像をはるかに越えた金融資産流出への規制を行っているようだ。たとえば口座のある香港の現地金融機関と政府が一体となって規制しているということで、あるIR関連企業ではわずか500万円を香港から日本へ送金することができずにいるという。

 巨額な金融資産を保有する中華系IR投資開発企業は、香港から脱出して海外への資金移動を計画したものの、凍結されて身動きがとれない状態に陥っている。彼らはこの状況に対処するため、日本のメガバンクや世界的な投資銀行からのdebt(投資のための借入金)も画策するが、これも拒否され、マネーロンダリングなどの懸念も加わり、中国政府と米国バイデン政権の板挟みになっている。このように、金融資産の自由主義諸国への移動は極めて困難となっている。

 すでに撤退した前述の中華系IRカジノ企業は、この点について触れてはいないが、撤退理由の1つであることは間違いない。彼らは、RFP(提案依頼書)を含む巨額な投資資金計画をどのように実行するのかという難題に直面している。状況が好転する兆しはなく、資金はあっても国外にもち出せないわけである。

 このような状況について、長崎県と佐世保市の行政、市議会、地元財界などIR長崎の関係者が正しく理解しているか疑問なしとしない。

 Oshidori International Developmentは、IR長崎の対象の中華系カジノ企業。提携先の米国モヒガン・ゲーミング&エンターテイメントは、韓国ソウルの失敗と北海道苫小牧の失敗に加え、世界的なコロナ禍で財務内容が悪化し、現状は単なる下請のオペレーターである。また、残りのオーストリア政府系のカジノ・オーストリア・インターナショナル・ジャパン、香港のチャウフー(パークビュー)グループなどは信用力の面で問題がある。

 すでに説明してきたように、IR長崎の計画には理解し難い部分がある。長崎県が作成した資料にある年間集客延べ人数690~930万人についても、信憑性が疑われる。ある米国調査機関では、コロナ禍以前の条件でもハウステンボスが過去に達成した300万人が上限とはじき出している。仮にIRの誘致開発が実現しても、集客力が大きく変わるものではないと考えられる。

 米国調査機関は、仮に海外観光客誘致数がコロナ禍以前の全国3,000万人に戻ったとしても、集客数は関東都市圏が60%、関西都市圏が30%、残り10%の300万人が福岡を中心とした北部九州都市圏と予測している。IR福岡の関係者は、それを踏まえて、IR計画の基本は広大な都市圏の後背地人口を主体とした市場にあるとしている。

 IR長崎の計画は上記の事情に習近平政権による中国人の海外カジノ観光規制も加わることから、合理性を欠き実現困難とみる。今回のコロナ禍で観光客主体の計画が、いかにハイリスクであるかが浮き彫りとなった。

 日米経済安全保障問題や国際金融を取り巻く環境などを認識し、IR長崎の計画を可能な限り速やかに取りやめて、九州一丸となってIR福岡の実現に協力するのが賢明といえる。

【青木 義彦】

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