2024年12月23日( 月 )

【企業研究】疑問だらけの前期決算 「リモートタウン宮若」に大型投資~(株)トライアルカンパニー(前)

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 トライアルカンパニーの2021年3月期決算は営業収益が前期比6.6%増の4,562億円、経常利益84.2%増の67億9,700万円となった。表面上は増収大幅増益だが、分社化した小売子会社などの業績は非公表で、額面通り受け取れない。同社は福岡県宮若市で総事業費50億円をかけAI(人工知能)カメラの開発拠点や複合宿泊施設などから成る「リモートワークタウン ムスブ宮若」を推進中で6月下旬、第1弾が稼働を始めた。本業の収益への寄与は未知数で、事業多角化の一環なのか、意図も判然としない。コロナ景気が終わり、本業の収益力強化は待ったなしだ。

宮若市にAI開発拠点

6月下旬から稼働を始めたAI開発センター
6月下旬から稼働を始めたAI開発センター

 福岡市東区多の津のトライアル本社から車で約1時間。6月下旬、福岡の奥座敷といわれる若宮温泉近くの小学校跡を改造してAI開発センターが開所した。従業員は10人前後でスタートし、トライアルグループの情報システム開発会社で東京に本拠を置く「Retail AI X」や中国山東省のソフトウエア開発子会社の技術者、国内の外注先などが移転、最終的に130人体制にする。

 隣接して中国人技術者向けなどに126人収容の従業員寮を建設中だ。さらに2022年4月開業をメドに同小学校体育館跡を改装し農家レストランと、隣にある農産物直売所を建替え小型ディスカウントストアを開設する。一連の事業費は約13億円で、費用は国の補助金を活用し市が負担、トライアルは賃借費として年数百万円を支払う。

 近くにあるトヨタ自動車九州の研修施設「スコーレ若宮」を買い取り、12月までに温泉旅館や宿泊できる古民家棟、フランス料理店、「トライアル秘書室棟」を整備する。仏料理店は開店済みで古民家棟も今夏中にオープンする予定。新設する秘書室棟は3階建てで、最高幹部の会議や食事、宿泊に利用する。トライアルホールディングス(HD)代表取締役会長・永田久男氏が韓国サムスン電子の施設を参考に発案したという。

 続いて、別の2校の小学校廃校跡を改造し8月、AIカメラの部品開発を行う「AIデバイスセンター」と、衣料・雑貨の企画開発拠点「ファッションビレッジ」を開設する。

 トライアルは宮若市にゴルフ場と社員研修施設をもち、廃校が多いのに着目、AIなどの開発拠点に活用することを市に申し入れたという。同社はタブレット端末で決済できる「スマートショッピングカート」やAIカメラの開発を進めており、海外を含め複数にまたがる開発拠点を集約しコストを合理化、開発速度を上げる。約50億円とされる総事業費のうち、トライアルの持ち出しは「スコーレ若宮」と小学校2校の用地の買収費用程度で、大半は市が拠出する。

当期純利益2.3倍に

 21年3月期はスーパーセンター13店を出店したことで売上高は4,251億円と5.8%伸びた。小売子会社の取り分を増やしたため粗利益(売上総利益)は31億円と16億円減ったが、一方で子会社から徴収する家賃などの賃貸収入と手数料を計311億円と49億円増やした。販管費が横ばいだったことで営業利益は91.2%増の68億6,200万円とほぼ2倍に。固定資産除却損と税金が減ったことから最終利益は2.3倍の39億8,600万円に急増した。

 決算は小売子会社に商品を供給する卸部門が対象で、グループ全体の業績を反映していない。グループの業績は親会社のトライアルHDの連結決算でないとわからないが、HDも単体決算しかホームページ上に公開していない。

 トライアル単体の決算にも恣意性がうかがえ、全幅の信頼を置けない。

営業収益と経常利益推移

販管費と販管費率推移

有利子負債と自己資本比率推移

恣意性疑われる

 同社は15年9月持株会社制に移行したのを機に分社化に着手、小売部門を小型店のトライアルクイックを含め4社(その後3社に集約)に分割したのをはじめ、総務経理、開発、カードなど間接部門も仕入れ機能を残して独立させた。分社化で独立採算制を徹底しコスト削減を図るのが狙いだった。総務経理など非営業部門は経費で評価し、予算を下回れば一部を還元する。総務経理だと10人で行っていた仕事を9人に減らし生産性を上げることが求められる。店舗開発では、開発した物件が売上予算を上回れば成果報酬を支払う。

 事業会社トライアルは商品の売買差益と子会社から受け取る各種手数料を収益源にする卸・不動産業態に変わった。

 これにともない、経費・収益構造は劇的に変化した。販管費は分社化前の16年3月期に489億円、営業収益比で13.92%だったのが、分社化を完了した18年には281億円、比率は7.65%に低下、前期はそれぞれ273億円、5.98%だった。

 一方で経常利益率は16年3月期に2.00%を記録した後、低下傾向にあり20年は0.86%と過去5年間で最低に落ち込んだが、前期はコロナ景気で1.49%に回復した。単体の利益率だけを取り上げると分社化が成功したとは言い難い。

(つづく)

【工藤 勝広】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:石橋 亮太
所在地:福岡市東区多の津1-12-2
設 立:1981年7月
資本金:21億2,335万円
営業収益:(21/3)4,561億8,500万円

(後)

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