2024年12月22日( 日 )

【業界を読む】斜陽産業だが改革進まず、新聞は恒常的な赤字事業へ(前)

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 マスメディアの代表格である新聞の凋落が止まらない。新聞各社は本業のメディア事業で利益を出せず、不動産事業に頼らざるを得ない状況にある。新聞各社の最新の2021年3月期決算(日経新聞は20年12月期)を基に、新聞の現状と今後の可能性について検証する。

強烈な負のスパイラル

 (一社)日本ABC協会の調査によると、大手5紙(朝日、毎日、読売、日経、産経)とブロック紙、ローカル紙を含めた一般紙の2021年3月の発行部数(朝刊)は2,966万7,658部。前年同月比では233万7,386部の減少だ。1年間で全国紙である毎日新聞の発行部数を上回る数が消滅していることになる。新聞離れは今に始まったことではないが、コロナ禍でより顕著になった印象を受ける。

ABC調査

 新聞の購読平均年齢は50代とも60代ともいわれるが、読者の高齢化が進むとともに部数が減少していることは間違いない。団塊の世代が後期高齢者を迎える時代となり、年金受給者の生活費削減、死亡者数の増加が新聞社のビジネスモデルを直撃している。朝食とともに新聞に目を通すという典型的なサラリーマンの姿は、すでに過去のものだ。若いビジネスマンの朝の習慣に、新聞に目を通すという姿はもはやない。

 新聞の危機は日本よりも世界で早く訪れた。デジタルシフトが叫ばれ、部数減少に悩まされていたニューヨーク・タイムズは、スマホに活路を求めた。スマホファースト戦略は、世界中の英語読者とアンチ・トランプ読者を中心とした新規購読者の獲得に成功し、業績はV字回復をはたしている。翻って日本では、デジタルシフトに一定の成果を残したのは日経新聞のみで、その他の新聞は伸び悩んでいる。部数減少は購読料とともに大きな収入源である広告費の減少も招く。かつての新聞社の収益モデルは、現在強烈な負のスパイラルに陥っており、斜陽産業から抜け出す気配はない。

巨額赤字を計上した朝日

 5月26日に発表された朝日新聞社の決算は、「11期ぶりの赤字」「441億円の巨額赤字」といった衝撃的な見出しとともに各社で報じられた。同社の21年3月期連結決算は、売上高が3,000億円を割り込み、営業損益段階で70億円の赤字に転落。将来利益を前提に税金の前払い分を資産計上する繰延税金資産を取り崩したことで441億円の最終赤字となった。朝刊の発行部数も475万部まで減少し、前年同月比で40万部減を超える水準が続いている。押し紙や残紙を除いた実売数は350万部程度とも言われ、日本を代表するクオリティーペーパーの苦境が浮き彫りになっている。

朝日新聞社

 セグメント別に見てみよう。新聞発行を核とするメディア・コンテンツ事業は2,627億円の売上高で、前期から491億円の減収、営業損益段階で120億円の赤字となった。前期は約50億円の赤字だったため、赤字幅が70億円拡大したことになる。不動産事業は売上高が289億円で95億円の減収、営業利益は52億円で21億円の減益となった。

 メディア・コンテンツ事業は前期も赤字だったが、不動産事業の利益で吸収できていた。それが不動産事業の利益でも吸収できないレベルになったのが、21年3月期決算の最大の特徴だ。繰延税金資産の取り崩しにより大幅な最終赤字となったが、取り崩しで生じる決算書上のマイナスは一過性であり、キャッシュアウトをともなうものでもない。むしろ本業のマイナスを何とか不動産業でカバーしていたが、ついにそれもできなくなったことのほうが深刻な問題である。

 売上高の急速な減少と赤字拡大に苦しむ同社だが、これまでに積み上げてきた資産は大きい。貸借対照表を見ると、長短合わせた借入金が80億円程度に対して現預金は928億円を保有するなど、相変わらずキャッシュリッチだ。固定資産の内訳を見ても、赤字の原因となった繰延税金資産が前期比で300億円ほど減少する一方で、投資有価証券は200億円余り増加している。ただし、メディア・コンテンツ事業で100億円単位の赤字が続くようでは、さすがに経営基盤が揺らぐ。早期退職者の募集などのリストラ策は進められているが、業績が回復するイメージはまったくない。遠からず平均年収1,200万円といわれる高給の維持も難しくなるだろう。エリートがつくる質の高い新聞だったはずだが、「慰安婦」「吉田調書」などの問題を経て、世間のイメージが悪化した影響も大きい。

(つづく)

【緒方 克美】

(中)

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