ブラック社員にご用心!やっかいな合同労組絡みの労使トラブル(前)
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ある日突然、聞いたこともない労働組合から団体交渉の申し入れを受ける。個人でも加入できる労働組合の活動が活発化している。深刻な労働問題に直面した労働者の救済支援を目的とする合同労組(ユニオン)が介入した労使トラブルには、労働者の身勝手な要求が正当化されるケースも見られ、企業経営の新たなリスクとして浮上している。
「腰の低いアルバイト」の印象
2020年12月、福岡市内でスマートフォンアプリの開発を手がけるA社は、中期的な業務拡大を見据え、デザイン業務を担える社員を育成したいとの思いで、インターネットを通じて20代前半の女性Bさんをアルバイトとして採用した。
非常に地味でおとなしい印象のBさんは、私大の法学部を中途退学後、事務職員として半年間勤務。もっと自分のスキルを生かせる仕事がしたいと、その後、職業訓練校のデザイン科に入学し、卒業するまでの間に、クリエイター能力認定試験エキスパートの資格を取得するなど、面接では前向きな姿勢で転職活動を行っていたように見えた。
A社の社長は、履歴書に本人の写真がなかったことや職歴に多少の違和感を覚えながらも、「絵を描くことが大好き」というBさんに期待を寄せ、目標に向かって努力する若者を育てようと決意。長く働くという前提だったため、手厚い設備投資を行って働きやすい業務環境を彼女のために整えた。
実務経験こそないものの、Bさんは高校時代には美術部の部長、その後も専門学校でデザイン部門担当としてさまざまな活動に従事していたとのことで、デザイン業務において才能を感じさせる場面もあったという。ただ実際仕事をさせてみると各イラスト関係のソフトのエキスパート資格をもっているとは到底思えないスキルだったため、長期的に育てるつもりで彼女に惜しみなく設備投資をし、入社後は仕事に一生懸命打ち込み、「腰が低くて優しそうなアルバイト」だったとA社長は振り返る。
突然の長期休暇申し入れ
そんなBさんが豹変したのは入社からおおよそ半年を迎え、雇用契約の更新を1カ月後に控えた5月の下旬だった。急な体調不良で欠勤したBさんは、翌日出勤すると突然、「仕事で思うような成果が出せず悩んでいる、1カ月のお休みをもらいたい」と申し出た。1日6時間労働で、ゴールデンウィークなどもしっかりと休みを与えていたことから、社長は入社して半年も経たないアルバイトに1カ月も休まれては困ると告げた。そうすると、Bさんは「この会社はアルバイトには雇用保険もない」と言い放ち、それ以降、会社に来なくなってしまった。
突然の展開に社長は呆然とした。これまで低姿勢でペコペコしていた20代のアルバイト女性の態度の急変。6月に入るとすぐに、労働組合ユニオンからBさんの雇用保険未加入と残業代未払いの支払い要求の電話がかかってきた。だが、Bさんは残業もまったくしていなければ、雇用保険も担当への回答をせず放置していたのはBさん自身である。ただ、一度だけBさんの方から担当に「雇用保険の番号はいつまでに出せばいいんですか?」と4月中旬に質問しており、その時A社の担当は「番号がわかるのであれば早めに教えてください」と伝えていた。このやり取りからBさんは、まだ自分に雇用保険がかかっていないことを確認したうえで被害者として労働組合に相談している。雇われる側がいつも弱い立場として扱われる現実に、A社長は憤りを感じた。
続いて、Bさんから内容証明で退職届と未払い残業代の請求が届いた。退職理由を「雇用保険をかけてくれない会社」として、「毎週水曜日の植木への水やり」や「コップを洗う事」についても契約違反との物言いであった。A社長は一度もそのような雑用を本人に命じたことはない。Bさんが自ら先輩社員らのコップを洗うことはあったが、それも過去を遡っても数回程度のことだった。
労働者を奴隷のように扱っているというBさんの一方的な主張内容に絶句した社長は、過去に「もっときつく言ってください。罵倒してくれたほうが、私は伸びるんです」と言われたことを思い出した。もしかすると、あの時もボイスレコーダーを忍ばせて録音していたのかもしれないと振り返る。
(つづく)
【児玉 崇】
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