中国の再エネ巨大市場 脱炭素化を追い風に「技術覇権」狙う(後)
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東北大学東北アジア研究センター
教授 明日香 壽川 氏中国は世界の太陽光パネル生産量の約8割を占め、風力発電設備でも主要生産国の1つだ。巨大エネルギー市場をもつ中国は石炭火力発電が主力であるが、2020年に新設された風力発電は前年比2.7倍、太陽光発電も同1.8倍と再生可能エネルギーが急拡大している。「2060年にカーボンニュートラル」「再エネの技術覇権国」を掲げる中国の再エネ化はどこまで進んでいるのか。東北大学東北アジア研究センター教授・明日香壽川氏に、中国の再エネ政策と市場動向を聞いた。
世界がカーボンニュートラルになることで中国のこれらの製造業が強化され、市場が発展して輸出が拡大する。中国政府が産業構造の再エネへの転換に向けて関連企業に巨額投資をしてきたため、市場に多くの企業が参入した。日本では名の知れた大手の重電メーカーが再エネ関連設備を長年手がけてきたが、中国では新興企業による競争が厳しく、トップ企業の入れ替わりも激しい。
「中国の再エネ推進政策が、結果的に中国製品の輸出を後押ししているのはたしかです。ただし、それはどの国もやろうとしていることです。外国からの輸入品に対抗するために、自国企業優先というのも世界のどの国でも見られます」(同)。
たとえば、バイデン大統領もトランプ前政権と同様に中国に対する強硬姿勢を崩さず、「バイ・アメリカン(米国製品を優先して購入)」を進めている。蓄電池に使うレアアースのリチウムは資源外交のテーマであるが、中国は輸入に依存せず自国で産出することが強みとなり、米中貿易問題となっているEVに搭載する半導体も国産化率の引き上げを目指す。一方、中国の自国生産主義は人件費高騰がネックとなり、コストの安いベトナムなどに中国から工場を移す企業も増えている。
「昨年12月に日本政府が発表した『2050年カーボンニュートラルにともなうグリーン成長戦略』では、革新的技術の開発が必要としていますが、革新的技術に頼らずとも既存の再エネや省エネ技術で目標の9割は達成できます。革新的技術への投資は否定しませんが、まず自国の再エネや省エネへの投資を喚起するような政策を行うべきではないでしょうか。国内市場の成長が見通せないという理由で、日本企業の多くが太陽光発電や風力発電など再エネ設備の自社生産から撤退してしまいました。明らかに政府の失敗であり、その反省に立って経産省は新たな産業政策をつくってほしいと感じます」(同)。
孫正義氏の再エネ国際送電構想
ソフトバンクグループ(株)代表取締役会長兼社長・孫正義氏が出資する(公財)自然エネルギー財団では、中国やロシア、モンゴルなどで発電した再エネを海底に国際送電ケーブルを設置して日本へ送る「アジアスーパーグリッド構想」を発表している。
この構想について明日香氏は、「50年のカーボンニュートラル実現に向けて、再エネを安価で輸入するというシナリオです。安全保障や日米関係など政治上の問題が実現を妨げる可能性はあります。ただし、この構想で日本に送る電気は多くても国内需要の数%のため、あくまでもサポート的な立ち位置になるだろうと予想しています。国際連携をしても、まず日本が脱炭素化に向けて国内の再エネや省エネに取り組む必要があることは変わりないでしょう」との見通しを示している。
再エネ国際交渉の行方
中国は4月の気候サミットで26~30年の5カ年計画により石炭消費を段階的に廃止すると発表するなど、バイデン政権が発足してから脱炭素化への関与を強めている。11月には気候変動枠組条約締約国会議「COP26グラスゴー会議」で、各国の温室効果ガス削減の数値目標について国際交渉が行われる。
明日香氏は「米国、中国が大きな交渉力をもっており、それにつぐのが欧州です。米中が新しい公約をすれば、ほかの国もそれに従うでしょう。米国バイデン大統領は温暖化対策で中国に圧力をかけるため、4月の気候サミットで米国の30年の温室効果ガス削減目標を05年比50~52%減に引き上げました。それに対して中国がどのようなボールを投げ返すか、すなわち目標の引き上げを宣言するかが注目されています。たとえば、30年までに二酸化炭素排出量を減少に転じさせる目標を28年に2年前倒しすることなどが期待されます。しかし、米国も50~52%減を実現する政策を実際に導入する必要があり、それがなければ中国が単純に目標を引き上げることはないでしょう」と予想している。
米国エネルギー情報局は、再エネが原発や石炭火力よりもコストが安いことを公表しているため、トランプ前政権が石炭火力保護政策をとっていた当時から、米国では再エネ投資が増え続けている。明日香氏は「各国政府は脱炭素化に向けて前向きな計画を打ち出しています。しかし、その数値がどこまで具体的な政策に裏打ちされていて、実現までのロードマップがしっかり策定されているかなどを厳しく見極めるべきです」と指摘する。
今後さらに普及が進むと予想される中国の再エネは、世界の再エネ政策や温暖化対策に大きく影響するため、中国政府や企業の一挙一動に注目が集まっている。
(了)
【石井 ゆかり】
<プロフィール>
明日香 壽川(あすか・じゅせん)
1959年生まれ。東北大学東北アジア研究センター教授(兼)環境科学研究科教授。東京大学大学院農学系研究科(農学修士)、欧州経営大学院(INSEAD、経営学修士)、東京大学大学院工学系研究科(学術博士)。電力中央研究所経済社会研究所研究員、京都大学経済研究所客員助教授、(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)気候変動グループ・ディレクターなどを歴任。主な著書に『グリーン・ニューディール:世界を動かすガバニング・アジェンダ』(岩波新書)、『脱「原発・温暖化」の経済学』(中央経済社)など。関連キーワード
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