2024年12月22日( 日 )

【企業研究】旅行業界国内トップのJTB 復活か濁流に飲まれるかの岐路に立つ(後)

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JTBグループ

 国内旅行取扱業者としてトップに君臨し続けるJTBグループ。売上規模は1兆円を超え、政府主導による観光立国とともに業績を拡大し続けてきたが、コロナ禍で一転、2021年3月期は過去最大の赤字を計上した。22年3月期で黒字回復を狙うが、コロナ禍以外の課題も浮き彫りとなっている。

衰退する個人事業 崩れた店頭販売スタイル

 21年3月期の過去最大の赤字は、コロナ禍によるダメージを顕著に表しているが、同時に、これまで見え隠れしていた問題を鮮明に浮かび上がらせた。古き良き体質(レガシーシステム)とされてきた「対面販売モデル」である。

 同社の業績をセグメント別で見ると(【表2】【表3】参照)、店頭販売を中心とした一般旅客者向けの個人事業、修学旅行や出張など法人・団体向けのサービスを扱う法人事業、海外旅行者とインバウンド事業を扱うグローバル事業、商事や出版といったシナジー事業などに区分される。

【表2】【表3】

 全国に多数の店舗をもつ同社では個人事業と法人事業が主力だが、個人事業については低迷が続いていた。20年3月期は台風などの自然災害も重なり、個人事業は売上高5,984億2,600万円、45億6,700万円の営業損失を計上。21年3月期は売上高1,134億5,400万円、営業損失504億6,200万円に悪化した。

 法人事業もコロナ禍によって21年3月期は営業損失65億6,900万円となったが、前期は78億9,900万円の営業利益を確保し、利益面で重要な役割をはたしている。同社によれば、法人事業は修学旅行を含む団体旅行の取り消しや大型イベントの中止・延期が相次ぎ、大幅に需要が減少。その一方で、デジタルを活用したハイブリッド型ミーティングやオンライン展示会などデジタル化事業への取り組みが功を奏し始めているという。また、旅行以外のソリューション事業として、人流に影響されない企業版ふるさと納税サイト「ふるさとコネクト」などの新たな取り組みも好調と説明している。

JTB 同社の店頭販売を主流とした個人事業は、コロナ禍以前から低迷が続いていた。オンライン専門取組業者の猛追が影響しているためであるが、同様の現象は世界中で見られている。イギリスでは大手旅行会社のトーマス・クックがオンライン予約の急速な普及に対応できずに、業績悪化により19年に破産。トーマス・クックは経営再建に向けて、オンライン専門取組業者として20年9月から旅行の取り扱いを再開したが、コロナ禍もあって厳しい状況となっている。

 米国のエクスペディアなど大手オンライン旅行取扱業者の台頭もあり、JTBなどの古参の業者にとって新たな市場での成功は困難な道のりといえるが、アフターコロナで挽回するためには避けて通れないだろう。また、店頭販売をはじめとする古い体質の事業が中心の同社では、引き続き店舗の閉鎖やリストラといった対策が必要になると予想される。

対応と適応が問われるニューノーマル時代

 コロナ禍は人々の日常生活や旅行だけでなく、出張や訪問営業などビジネス形態にも大きな変化をもたらした。ニューノーマル時代の到来である。

 JTBにとって、法人事業の要となる出張が減少した影響は大きい。多くの企業がリモートワークを推進していることからも、アフターコロナにおいても以前のような業績は望めない。さまざまな施策を模索しながら、アフターコロナ後の業績回復に向けた取り組みを進めることが重要といえる。

 変異株の感染拡大という不安があるものの、ワクチン接種率の向上や国民の自粛疲れもあり、国内を中心とした旅行業は回復の兆しが見られる。観光庁が8月6日に発表した「主要旅行業者の旅行取扱状況速報(21年6月分)」【表4】によると、海外旅行の総取扱額は前年同月比264.3%、外国人旅行の総取扱額は同883.0%、国内旅行の総取扱額は同156.6%となった。東京オリンピックの影響が大きく、外国人旅行の総取扱額が急増した。これは一時的なものとみられるが、国内旅行の取扱額も増加しており、全般的に回復傾向にあるといえる。

 このうちJTBの取扱額は海外旅行が前年度比238.4%(前々年度比2.3%)、外国人旅行が711.1%(14.9%)、国内旅行が122.6%(24.7%)となった。他社も各分野で前年を大きく上回っている。

【表4】

 国連世界観光機関(UNWTO)は6月、世界の観光業界が24年から25年にかけて徐々に回復に向かうと発表した。まだまだ不透明な要素はあるものの、JTBが得意とする海外富裕層向けの需要が復活すれば光も見えてくるだろう。

 5月に行われた決算発表会で同社代表取締役社長・山北栄二郎氏は、「22年度決算において、なんとしても最終黒字を実現する」と決意を表明した。一方、コロナ禍、レガシーシステムからの脱却、コロナ収束後に到来するニューノーマル時代など課題も多い。これらの難題に対応するために、どのような施策を行い、構造改革を進めるのか。国内トップの旅行業者である同社の手腕が問われている。

(了)

【麓 由哉】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:山北 栄二郎
所在地:東京都品川区東品川2-3-11
設 立:1963年11月
資本金:1億円
売上高:(21/3連結)3,721億1,200万円

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