2024年11月22日( 金 )

国民の命より「五輪利権」を優先 政治家の劣化、ここに極まり【特別対談】(前)

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元朝日新聞編集委員 山田 厚史 氏
ジャーナリスト/小池都知事の「天敵」 横田 一 氏

 政治家の劣化が甚だしい。「至上最低」(月刊誌の編集者)と酷評された今年6月9日の党首討論は、野党第一党・立憲民主党の枝野幸男代表が五輪開催による感染爆発リスクなどについて質問したのに、菅義偉首相は聞かれたことに答えず、突然、57年前の東京五輪の思い出話を約3分以上も語り続けた。国民への説明責任を投げ出すと同時に危機管理能力の欠如が露わになる醜態を曝(さら)け出したのだ。最高権力者のぶざまな姿は、戦後75年の間に日本の政治レベルが地に落ち、とことん劣化したことを物語るものだ。そんな現実から目を背けたくなる衝動を抑えながら、今回はこうした“劣化政治家”を、対談を通して直視・論評していくことにした。対談相手は、元朝日新聞記者で経済担当の編集委員も務めた山田厚史氏。ネット配信媒体『デモクラシータイムス』代表で『週ナカニュース』『山田厚史の闇と死角』などの番組を多数公開。私が毎週月曜日に配信する「横田一の現場直撃」もデモクラシータイムスの番組群の1つだが、山田氏の番組と同じネタ(菅政権のコロナ対策や五輪開催強行や参院広島再選挙など)を取り上げることは珍しくなかった。そこで共通テーマにおける政治家の言動をチェックしていくことにした。

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 横田一(以下、横田) 政治家の劣化の典型的事例は、菅首相が自らの政権維持のために“博打五輪”をやろうとしていることのように見えます。

山田 厚史氏
山田 厚史氏

 山田厚史(以下、山田) IOC(国際オリンピック組織委員会)のバッハ会長と菅首相は一体化している。「五輪を開催するのか中止にするのか」ではなくて、「やるしかない」としか言わない。「誰のためか」と言ったら「私(菅首相)のため」ということですよ。「菅首相の菅首相による菅首相のための五輪」なのであり、バッハ会長も同じ立場です。この2人は、五輪の私物化で足並みをそろえているといえます。「五輪を開催さえすれば、『ニッポン、チャチャチャ』となって国民が盛り上がり、ムードが変わって総選挙での勝利は確実」と菅首相は目論んでいるのでしょうが、国民をなめているとしか言いようがない。五輪開催による感染拡大のリスクを軽視しているともいえます。

横田 一 氏
横田 一 氏

 横田 まさに国民の命を危険にさらしながら自らの延命を狙う“博打五輪”ですね。官邸御用たちの選挙プランナーである三浦博史氏は、菅首相と定期的に会っていますが、五輪開催による総選挙圧勝シナリオを入れ知恵しているのは間違いない。1月18日の毎日新聞夕刊のインタビュー記事で三浦氏は五輪開催の場合、「国内は沸き立ち、自民は単独で3分の2以上を獲得する可能性大」と語っていた。この圧勝シナリオに沿って、菅首相は五輪開催を強行しようとしているように見えます。

 逆に五輪中止となれば、「菅政権のコロナ対策の失敗が原因」といった批判が相次いで退陣に追い込まれかねない。だから、何が何でも五輪開催に突き進む。「自分ファースト」「選挙ファースト」ということですね。

国民の命より、IOC利権を優先か。菅首相
国民の命より、IOC利権を優先か。菅首相

 山田 政治が国民のためではなく、権力者の保身、政権維持の道具と化している。菅首相が本当に五輪開催の意義があると思うのだったら、それを国民にきちんと説明しないといけないが、いまだに意義を語ることはしない。「最高権力者の座に居続けるために五輪開催する」といった本音はいえないわけですから。

劣化政治家の象徴、安倍前首相
劣化政治家の象徴、安倍前首相

 横田 なるほど。菅首相が官房長官として仕えてきた安倍晋三・前首相が「とにかく開催しろ」と釘を刺している可能性も十分にあります。

 山田 第二次安倍政権のレガシーは五輪以外には何もない。当初は看板政策だったアベノミクスは破綻、悲願の憲法改正もはたすことができなかった。その一方で安倍首相(当時)の身びいきが森友・加計・桜を見る会などで明らかになった。新自由主義を掲げていたが、途中から身内を優遇する縁故資本主義に変質してしまったともいえます。このアベ私物化政治を野党が徹底的に追及、安倍首相は辞任に追い込まれた。唯一残ったレガシーである東京五輪が中止になってしまったら、「何のための長期政権だったのか」と問われることになる。それで安倍前首相は、菅首相に「オリンピックだけは何があっても開催してね」と念を押していても不思議ではありません。

 横田 その見方と符合する発言が飛び出していました。4月25日投開票のトリプル選で3連敗をしてしまい、自民党内で「これでは総選挙が戦えない」という声が強まろうとしていたときに、安倍前首相は菅首相への支持を口にした。“菅降ろし”の火消し役を買って出たのは、五輪開催をレガシーにしたい願望の産物に違いありません。それに加えて、自らへの責任追及回避の狙いもあったのでしょう。五輪中止となれば、2年延期ではなく、1年延期を主張した安倍前首相の責任も問われる。「自らの政権下で開催しようとして1年延期にしたことが諸悪の根源」と批判の矛先が安倍前首相にも向かう。菅首相はもちろん安倍前首相もまた、五輪開催は絶対に譲れないということでしょう。

(つづく)

(中)

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