2024年11月26日( 火 )

【中国総領事】改革開放のなかで回復を続ける中国経済、新たなチャンス迎えた中日経済・貿易協力(前)

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中華人民共和国駐福岡総領事 律 桂軍 氏

 中国経済の現状と日中経済協力について、中華人民共和国駐福岡総領事の律桂軍氏より寄稿していただいたので掲載する。中国は新型コロナウイルスを早期に抑え込み、経済を順調に回復させるとともに、発展戦略として、国際/国内市場の循環、グリーン発展、自由貿易試験区の拡大などを掲げており、律氏はそのなかで日本企業が投資を行うに当たって活用できるチャンス、プラットフォームを紹介する。

今年上半期GDP、12.7%成長

   今年は中国の第14次5カ年計画(「14・5」計画 2021-25年)のスタートの年で、中国経済は安定した回復を続けており、上半期の経済成長率は前年同期比12.7%増と安定のなかで上向きのプラス基調を示した。それは主に次の諸点に現れている。

(1)経済の回復が続いている。昨年第1四半期、中国経済は感染症の打撃を受けていたが、今年は前年同期比18.3%と大幅に伸び、第2四半期は同7.9%に鈍化したものの、2年平均の伸びは5.5%で、第1四半期の2年平均の伸び率5%を上回った。

(2)内需がメインエンジンの役割をはたしている。上半期、投資・消費ともに安定した回復ぶりを保った。うち消費財小売総額は前年同期比23%増で、2年平均では同4.4%の伸びとなった。最終消費支出の経済成長寄与率は61.7%に達した。全国の固定資産投資(農家を含まず)は前年同期比12.6%増で、2年平均では4.4%の伸びとなった。

(3)貿易が大幅に伸びている。感染予防・抑制と経済社会発展を一体的にとらえる成果が定着して、輸出入が安定しつつ上向き、再び好成績を上げた。通関統計によると、上半期の貿易総額は18兆700億元で、昨年同期比で27.1%伸びた。新型コロナウイルス感染前の2019年同期と比べると、総額、輸出、輸入がそれぞれ22.8%、23.8%、21.7%伸びている。

(4)質の高い発展により新たな成果を得ている。第1に産業構造の最適化が続き、需要構造が絶えず改善された。第2に新たな成長力が育ち続けた。上半期の一定規模〈年間売上高2,000万元〉以上のハイテク製造業の付加価値額は2年平均で13.2%伸び、実物商品のネット小売額は2年平均で16.5%伸び、デジタル経済と実体経済の融合が絶えず進んだ。

国際/国内市場の循環、グリーン発展

律 桂軍 氏

 世界銀行は先ごろ、2021年の中国の経済成長率予測を8.5%に上方修正し、消費と投資が引き続き中国の成長のエンジンになるとの見方を示した。

 より深く見ると、「14・5」計画スタートの年、中国は改革開放というカギをしっかりつかみ、創造的にパイオニアとして改革を深く掘り下げて押し進め、体制・仕組み面での障碍の除去に力を入れている。そして、国内・国際のダブル循環(双循環)が相互に促進する新しい発展の枠組み構築のために力強いサポートを提供し、質の高い発展に強大な原動力を与えていることは、日本を含む各国の対中協力拡大のために新たなチャンスをもたらしている。

 中国は改革の深化により全面的で調和のとれた発展を促進し、国内の巨大な需要を絶えず生み出し、国内の巨大市場の形成を加速する。「ともに豊かになる」(共同富裕)ことを掲げ、中間所得層の拡大を含めた、中間が大きく両端が小さいラグビーボール形の分配構造を形成する。中部地区の質の高い発展を図り、郷・村の振興を全面的に推し進め、独占に強く反対し、資本の無秩序な拡張を防ぐ。これらにより、異なる地域、業種、企業間の発展が一層秩序ある、調和のとれたものとする。

 次に改革の深化により全面的なグリーン経済への転換を加速しており、グリーン・低炭素の循環型経済が新たな投資対象となる。中国はいまグリーン・低炭素・循環型の経済体系を構築し、整えつつある。2030年までに炭素排出をピークアウトさせる行動プランを策定し、より大きい改革の度合いで、グリーン発展(緑色発展)を新たな段階に押し上げている。

 さらに改革の深化により経済の循環をスムーズなものとし、投資・ビジネス環境の改善を加速させている。今年に入って、一連の重量級の改革措置が着実に進められている。1月、共産党中央弁公庁、国務院弁公庁が「高基準の市場システム構築に関する行動計画」を公表し、今後5年で高基準の市場システムを構築する計画の「作戦図」を描いたことにより、生産要素配分の市場化と商品・サービスの流通を妨げる体制・メカニズム上の障碍の除去を速めている。市場参入許可のネガティブリストを全面的に実施し、知的財産権保護を加速し、公平な競争制度を充実させ、生産要素の自由な移動を加速させるための基礎を築く。

ネガティブリスト項目削減、自由貿易試験区拡大

 同時にまた、改革でより高い水準の対外開放を促進し、外国企業の対中貿易・投資のためのより大きな空間を開いた。開放分野を絶えず拡大し、市場参入を一段と緩和しており、全国版の外資参入ネガティブリストの制限措置を93項目から33項目に減らし、自動車、金融、証券各業界の外資出資比率規制を緩和し、サービス業の開放拡大の総合実験・デモを推進した。率先してRCEP(地域的な包括的経済連携協定)を批准し、実施の推進を加速した。積極的に開放の新たな高地、新たなプラットフォームをつくり、21の自由貿易試験区設置を推進し、高水準の海南自由貿易港を建設し、国レベルの経済開発区の革新・レベルアップを推し進め、輸入博覧会、広州交易会、サービス貿易交易会、消費財博覧会、投資商談会などの大型見本市を全力で開催した。制度型開放を急ぎ、越境ECなど貿易の新業態・新モデルに即応した体制・仕組みをつくり整えた。国際ルールに合わせ、貿易・投資の自由化・円滑化を図った。

 上半期、中国の外資利用実績は前年同期比28.7%増の6,078億4,000万元だった。在中国EU商工会議所の調査によると、対象企業の60%が今年中国事業の規模を拡大することを予定している。米国の非営利組織である米中貿易全国委員会の調査によると、対象企業の7割近くが今後5年の中国市場について楽観的な見通しをもっている。

 今年は中国共産党創立100周年にあたり、中国は予定通り小康社会(いくらかゆとりのある社会)の建設を全面的に完成させており、発展のための厚い基盤と条件をすでに備えている。一方、全世界の感染症はなお変化し続けており、外部環境はより複雑で厳しくなり、国内経済は回復基調にあるものの、依然として定着せず均衡がとれていない。中国は上半期の好調を基礎に、引き続き安定のなかで前進を図るという全般的活動基調を堅持し、新たな発展理念を完全、正確かつ全面的に貫き、供給サイドの構造改革を深め、新たな発展の枠組み構築を急ぎ、質の高い発展を図っていく。歴史の新しいスタート地点に立つとき、中国の質の高い発展の見通しは一層明るくなるとみられる。

(つづく)


<プロフィール>
律 桂軍
(りつ・けいぐん)
1967年生まれ。99年中華人民共和国駐日本国大使館アタッシェとして着任。以後、中国外交部アジア局処長(課長)、駐日本国大使館参事官、外交部アジア局参事官、駐シドニー総領事館副総領事、駐日本国大使館公使参事官を歴任。2020年6月、駐福岡総領事に着任。

(後)

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