2024年11月23日( 土 )

衰退する日本の現状【特別寄稿】(後)

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名古屋市立大学 特任教授 中川 十郎 氏

中川 十郎 氏
中川 十郎 氏

 今年3月19日発表の「国連世界幸福度ランキング」では上位のフィンランド、デンマーク、スイスなどに比し、我が日本は実に56位という情けない低位にある。失われた平成の30年間に日本の国民1人あたりのGDPは首位から23位に、デジタル競争力は63カ国中27位。デジタル教育46位、データ活用では実に63位に落ち込んでいる。デジタル時代を控え、ゆゆしき事態だ。

デジタル庁とは
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 その対応策は、日本がコロナ後の対策にGreen Revolution(緑の革命)とともにDX(Digital Transformation)、さらに健康・医療対策に真剣に取り組むことだ。前述の日経「デジタル立国ジャパン・フォーラム」では9月に内閣のデジタル庁が発足することもあり、デジタル専門家による長時間の熱のこもった討論があった。

 フォーラムでは、「Internetの父」とも呼ばれる村井純・慶應義塾教授など情報専門家の有益な講演があった。今後Global Cyber空間での安全、安心な日本の構築が重要だと強調された。台湾のタン・デジタル大臣はデジタル革命により、Machine Intelligenceで今後、手作業などが自動化され、時間の節約が進展。Social Innovationが進み、問題解決型の創造的イノベーションの時代が訪れる。そのためには自然と人間の関わりを大切にし、市民を信頼し、生涯教育を推進することが必要だと強調された。

 内閣情報通信政策監の三輪昭尚氏は5Gによるデータ活用、社会基盤整備と、社会実装、デジタル社会に備え、教育、医療、Cyber Securityなどを組み込んだDigital Government、Digital Societyの構築による社会問題解決が必要だと強調。さらにEBPM(Evidence Based Policy Making)の重要性も指摘された。

 デロイトトーマツのCSO(Chief Strategy Officer)の松江英夫氏は、日本の失われた30年間に米国と中国との差がついて、GDP per Capita(1人あたりGDP)では日本は23位に衰退。Digital 教育では46位、Data活用では実に63位に後退していると日本の出遅れに警告を発した。要するに日本は内向き「タコつぼ」型、Closed自前主義社会で変革スピードが遅い。既存ルールの偏重が目立つ。情報関係予算の80%が既存のシステム維持に向けられている。89%の従業員がデジタル教育の機会がないと指摘。これではデジタルの破壊力、創造的破壊に貢献できない。専門分野をつなげて統合的価値に重きを置き、新たなものをつくり出すことが大切。そのためには既存の強すぎる組織、業界を改革し、新たな価値創造、すなわち「在るものを活かし、無きものをつくる」ことが大切だとの指摘には同感で感銘を受けた。データをつなぎ、価値を創造し、地域を活性化するためにはデータを読み解き、課題を解決できる人財の育成、教育により人材の高付加価値化で、新しい産業創造と雇用機会の創出が大切だと強調された。まったく同感である。

 コロナ後は社会のパラダイム(社会の仕組み)が大幅に変革する。かつて日本がIT・情報革命に乗り遅れたのは1990年代のインターネット革命に日本の組織が閉鎖的で、かつ既得権が強すぎて対応できなかったことが原因だ。(野口悠紀雄『リープフロッグ』)。今またデジタル変革の時期に同じ過ちを犯してはならない。日本の官民の硬直した組織と既得権を破壊し、新たなデジタル社会の構築に向けて官民が総力を結集し、21世紀のGreen Revolution, Digital Transformation, Health, Medical Revolutionに対応することこそ、コロナ後の日本再生、日本生き残りのために肝要だ。

日本は年老いたゴールドメタリスト

 経世論研究所所長・三橋貴明氏の講演会があり、参加。演題は『変わる世界の経済政策、変わらない日本』。三橋氏によると日本の実質賃金は1996年を115とすると2015年に100、2020年には指標はさらに99に低下。25年間低下が継続し、ゆゆしき事態だ。これに比し、主要国の2018年GDPは2001年比で韓国、豪州が2.5倍強。米国、英国、カナダが2倍弱。フランス、ドイツが1.5倍弱。日本のみ1倍強と長期低迷が明白である。2010年にGDPで日本を抜いた中国は、2019年には日本の3倍の1,500兆ドル。米国は2,000兆ドルを越えた。2030年までには中国が米国を、インドが日本を抜くとの見方が現実味を帯びてきている。

 最近のコロナ禍での日本のPCR検査、ワクチン接種の目を覆わんばかりの世界的出遅れの主要な原因の1つが日本の一般職国家公務員の削減だとのことだ。2001年度の80万人から2019年度の30万人へ50万人強の極端な削減にその大きな原因があるとの指摘は注目に値する。OECD諸国の公務員の労働人口比率でみてもノルウエー、スエーデン、デンマークなど北欧諸国の30%台、OECD平均の18%弱に比し、日本の5.9%は最低である。人口1,000人あたりの公的部門における職員数でも日本は36.7人でフランス89.5人、英国69.2人、米国64.1人、ドイツ59.7人に比し、最低である。地方公共団体職員数も1994年の約328万人強から2020年には276万人強と50万人強削減されている。これらが日本の公立病院の削減と相まって、今回の日本政府のコロナ対策の後手後手の対応の一因であるというのが三橋氏の指摘するところである。さらに2019年と2020年の歳出予算残高も34.6兆円と巨額に達しており、政府の対応のまずさを三橋氏は鋭く指摘している。

 21世紀に国家の競争力の雌雄を決する科学予算の推移をみても日本が1983年来2019年に至るまで25年以上5兆円以下であるのに比し、米国は15兆円台で推移。一方、中国は2019年には科学予算は25兆円を突破、IoT、AI、EV、バイオ、宇宙科学などで総力を結集している。これに比し、日本の文部省は大学の予算を年々削減。大学授業料も値上げしており、大学授業料は低額もしくは無償としている先進各国に比べ、日本の対応は日本の将来の技術革新、文化振興にとってもゆゆしき事態にあることを強く認識する必要がある。

  これでは日本は21世紀に諸外国に太刀打ちできず、アジアでの衰える老大国、「年老いたゴールドメタリスト」となり、韓国、台湾はおろか、中国、インドなどの後塵を拝し衰退の坂道を転げ落ちるばかりではないかと危惧される。日本の奮起を望むのは無理だろうか。

(了)


<プロフィール>
中川 十郎
(なかがわ・じゅうろう)
 東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長を経て、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授など歴任。日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、中国競争情報協会国際顧問、日本コンペティティブ・インテリジェンス学会顧問など。著書多数。

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