関西スーパー争奪戦の異様~H2Oとオーケーは異なる買収方式で比較困難(後)
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関西が地盤の食品スーパー(株)関西スーパーマーケットをめぐる買収合戦に、ネット上では「判断材料が足りない」という投資家の不満を示す書き込みが溢れる。関西スーパーに買収を提案した(株)阪急阪神百貨店を運営するエイチ・ツー・オーリテイリング(株)と、首都圏を地盤とする食品スーパー、オーケー(株)の買収方式がまるっきり異なるため、どちらが株主に有利なのかわかりにくいためだ。M&A(合併・買収)に一石を投じる買収劇となった。
オーケーの創業家は華麗なる起業家一族
オーケーは1967年の設立で、オーナー一族は華麗なる経歴で有名。オーナーの飯田家は、オーケー会長を含む3人の兄弟がいずれも起業家としとて名を高めた。オーケー創業者で会長・飯田勧氏の兄の飯田保氏(故人)は居酒屋チェーン「天狗」のテンアライド(株)の創業者、弟の飯田亮氏は大手警備サービス、セコム(株)を創業した。
80年代に米ウォルマート流のEDLP(毎日安売り)を導入。ほかの食品スーパーと一線を画し、徹底的な低価格路線で売上を拡大。東京や神奈川、埼玉など国道16号の内側で大量出店してきた。
オーケーの2021年3月期の業績は、売上高に当たる営業収益が前期比16.7%増の5,089億円で、35期連続増収を達成した。これは家具量販店の(株)ニトリホールディングスと並ぶ増収記録だ。
経営力を測る有力な指標にROE(自己資本利益率)がある。株主の投資額に対して、利益をどれだけ上げたかを示す。オーケーの21年3月期のROEは17.96%とスーパー業界で屈指の収益力を誇る。
関西スーパーは株主にどう説明するか
争奪戦を決める関西スーパーの株主は、H2O案とオーケー案のどちらが自らの利益になるかを判断して、臨時株主総会に臨むことになる。
オーケーが提示したTOB価格2,250円は、関西スーパーの9月2日終値と比べ64%のプレミアム(上乗せ幅)がある。上場来の高値であり、すべての株主が損をせずに売却できる価格として設定したという。一般的なプレミアムが3割程度といわれるなかで、破格の条件といえる。完全子会社を目指すため、応募した株主は必ず、その価格で買い取ってもらえる。
オーケーの二宮涼太郎社長は、買収総額は670億円になるが、「無借金経営であり、手元資金で買うことが可能」(ブルームバーク通信9月3日付)と語っている。
H2O案は同社の子会社の株式と関西スーパー株を交換するものだ。異なる構図の提案がぶつかる珍しいケースのうえ、H2Oの子会社が非上場のため、市場価格がつかめないことが比較を難しくしている。
双方がTOBを提案しているのであれば、どちらが高いか低いかで判断できる。上場会社の関西スーパーとの株式交換でも、市場価値は比較できる。H2Oは関西スーパーの買収にあたって、100%子会社のイズミヤ、阪急オアシスとの株式交換を選んだ。イズミヤも阪急オアシスとも非上場で市場価値がない。オーケーのTOB価格とどちらが優れているのかを判断するのは容易ではない。
1株2,250円というTOB価格は、オーケーが非上場企業だからできる芸当で、上場企業ではこのような高値づかみとなるTOB価格は打ち出せない。上場企業との株式交換方式でも、1株あたりの価格は弾き出せるので比較できる。
だが、非上場会社との株式交換は、市場価値を算出できない。H2Oの提案は、オーケーのTOB価格と比較できないことがミソだ。比較できる案を出したら、劣勢になるからだ。H2Oには知恵者が軍師についているようで、「後出しジャンケン」の妙である。
ロイター通信(8月31日付)は〈(東証は)関西スーパーがH2O傘下のイズミヤと阪急オアシスを12月1日付で株式交換により子会社化した場合、関西スーパーは実質的な存続会社でないと認められる、と判断した〉と報じた。早急に是正しないと、関西スーパーは上場廃止になりかねない。下手すると、「策士、策に溺れる」という図だ。
関西スーパーの経営陣は株主に対して、非上場会社との株式交換で、どの程度の価値を算出したかを数値で説明する必要がある。上場廃止を避けるために、どんな対応をとるかも、具体的に説明しなければならない。関西スーパーの株主はどう判断するか。10月29日の臨時株主総会で決まる。
(了)
【森村 和男】
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