2024年11月29日( 金 )

【凡学一生の優しい法律学】茂木健一郎氏の私的感覚憲法論

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(1)そもそも日本語表現の混乱~女性天皇と女系天皇の曖昧さ

 日本語の言葉を正確に理解すれば、女性天皇とは文字通り女性の天皇であり、女系天皇とは、天皇の女子(娘)の子孫も地位承継ができるが、ただし天皇であるためには男子でなければならない、とするもののようだ。もともとは「皇男子孫」という言葉の意味の解釈の問題でもある。

 「皇男子孫」の意味の解釈が、明治憲法下と日本国憲法下ではまったく異なるという理解がまず必要である。

(2)天皇制についての明治憲法と日本国憲法の規定~権威主義から象徴主義へ

皇居 イメージ 明治憲法下における皇室典範は憲法と一体となったものであるのに比べ、日本国憲法における皇室典範は法律の1つにすぎない。明治憲法では、天皇の地位承継は憲法本文に「皇男子孫」と規定され(第2条)、日本国憲法下でも、法律としての皇室典範の規定は同様の表現となっているが、憲法本文には皇室典範は存在しない(日本国憲法第2条参照)。

 天皇の地位継承は法律事項であるため、皇室典範の改正は法律改正の手続きであり、憲法改正の手続きとはならない。法律内容は憲法規定に反することはできないが、自由に時の国会が改正できる。日本の憲法論議ではよくあることだが、明治憲法下で成立した法令などが批判されることもなく、そのまま存在し継続する例は多い。このことから、憲法違反の法条として最高裁が違憲無効判決をする場合が時々起こる。

 さすがに、明治憲法下の天皇の地位継承が「皇男子孫」とあるのが、日本国憲法下では男女平等原則に違反する規定だと主張する者はいない。一般国民は皇族でなく、天皇の地位の承継とは無縁なためであり、加えて、そのような言説は「不敬」のイメージがともなうからであろう。

 明治憲法下では天皇は神格化され、庶民がその地位の継承などを軽々しく口に出すことは憚られた。現在も家父長制に強いノスタルジーを抱く人々は「皇男子孫」規定は当然であり、そうでない人は血族であればとくに男子である必要はなく、女性天皇も女系天皇も何ら問題ないという価値観をもつだろう。現在の国会議員が、皇室典範の規定を変更する必要はないと考えれば変更されない。ただそれだけのことである。

 もし皇男子孫の規定に適合する皇族がいなくなれば、法律を改正して皇族のなかから天皇をあらたに選任するしか方法がない。しかし、現在ではその必要はないため、この手の議論は単なる嗜好やイデオロギーの違いに終始する。

 明治憲法下で憲法と同位にあった皇室典範が、日本国憲法下で形式的には法律となったものの、皇位継承条項の「皇男子孫」という言葉もそのまま残ったために、現在の天皇の地位の継承について女性天皇、ひいて女系天皇の議論が発生している。この問題を私的な感覚、嗜好で議論しているのが脳科学者・茂木健一郎氏の論考である。

 天皇が男性であれ、女性であれ、象徴天皇である意味にはまったく関係のないことである。「皇男子孫」が途絶えれば、事実上、非「皇男子孫」の天皇が出現するが、もし幼少で象徴天皇の国事行為に堪えられない場合、摂政が置かれる。摂政に関しても性別にこだわる議論が発生すれば、日本は男尊女卑の国と世界から笑い者にされるだろう。

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