2024年11月22日( 金 )

【IR福岡誘致開発特別連載61】IR長崎、県の年間収入310億円は“取らぬ狸…”

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資金調達もコンソーシアム組成も実現不可能

長崎県庁 イメージ 21日の定例長崎県議会で自民党議員の一般質問を受け、長崎県はIR開業後に事業者が県に納めるカジノ粗利益の15%と日本人のカジノ入場料を合わせて、年間310億円の収入が見込まれると回答した。まさに「取らぬ狸の皮算用」「絵に描いた餅」であり、具体的な根拠のない数値の説明に終始した。

 さらに、26日付の西日本新聞では、「IR誘致“号砲”前なのに…経済効果に疑問符 表明は西日本ばかり」と題して、IR長崎の問題を大きく取り上げて懸念を示している。

 これらは行政御用達のアナリストが行政の意向を忖度して作成した、年間集客見込み数の840万人から割り出された収入額だ。しかし、地元新聞社の記事は、この310億円の収入について大見出しで触れているのみで、その“真相”について述べていない。

 その地元新聞も2019年10月に報じた特集記事(全5回)で、IR長崎をめぐるさまざまな懸念を報じていた。この時期までは専門知識も必要なく、一般的に考えられる懸念を指摘できたのだろう。

 その特集記事の3回目「オール九州 応援決議 実行性に疑問」では、九州全域の各行政と財界関係者がIR長崎のみを応援しているわけではないと明確に解説していた。

 言い換えれば、その時点では長崎しか候補地はなかったが、ほかに有力な候補地があれば積極的に検討するとして、九州経済連合会などが主体となり、具体的な効果のある地域への誘致(福岡青年会議所主催のIR福岡誘致)を促がしていたわけである。

 これと合わせて、IR長崎の今後のポイントは福岡市の財界関係者で組織する「福岡七社会」の動向であると解説していた。

 現在のところ、ハウステンボスの主要株主である九州電力や西部ガス(地元ハウステンボス町全域のエネルギー供給義務を有する)でさえ、表向きには協力姿勢を示しているものの、いまだにIR開発事業母体(コンソーシアム)の組織組成計画もなく、一切彼らの名前も出ていない。

 さらに、積極推進者の1人である元JR九州の石原進氏も同様で、目の前にJR九州の駅があり、ハウステンボス号も走らせてはいるが、開発事業のエクイティ参加には消極的で一切のリスクを取ろうとしていない。つまり、「誰かが主たる事業者となり、リスクを取ってくれれば、それに乗りますよ」という話である。

 また、事業開発は福岡財界・企業だけで実行できるものではない。ましてや長崎県の経済規模では話にもならない。国内メガバンクまたは世界的な投資銀行による投資、巨額な資金調達がなければ実行困難なのだ。福岡財界も過去の度重なるハウステンボス閉鎖危機を熟知しており、資金調達のめどがつけば考えましょうという姿勢である。

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 年間集客見込み数の840万人には、日・祝日を含めて毎日2万人以上の安定した来客が必要であり、それが実現すれば、長崎県が回答した年間310億円の収入も可能となる。しかし、前述の西日本新聞が指摘するように、コロナ禍でのインバウンド海外観光客の激減に加え、中国習近平政権による中国人のカジノ観光規制もあり、840万人や310億円という数字に信憑性はなく、これを信じている財界関係者は誰1人いないといえる。

 従って、IR長崎における3,500億円の資金調達とコンソーシアムの組織組成は実行不可能である。

長崎県議会は何を討議しているのか?

 年間集客見込み数の840万人は、どのような階層の人たちで、どのような地域から、どの交通機関を利用して集まるのかと問えば、すでに答えは出ている。仮に九州全域(九州の人口約1,300万人)から集客すると考えても、これは途方もない机上の計算となり、西の端に位置するハウステンボスでは実現不可能な集客見込みである。

 九州でIR誘致開発事業が可能な場所は、福岡市中心の北部九州都市圏しかないと断言できる。全国では東京・大阪・福岡の3カ所しかなく、これから伸びるのはアジアに近くポテンシャルの高い福岡といえる。

 コロナ禍で海外からのインバウンド観光客などはあてにならず、それを計算に入れたプロジェクトに投資する者はいない。集客対象の大半は入場料を支払う日本人であり、米国IR企業主体のカジノを含むエンターテインメントショービジネスを誘致するためには、大都市圏(後背地の人口が多い)の候補地が必要なのだ。

【青木 義彦】

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