連合(アライアンス)が中小企業の、さらには日本の文化・伝統の持続へ〜川邊事務所会長・川邊康晴氏に訊く(2)
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「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が全会一致で採択された2015年9月の国連サミッ トから、今月でちょうど丸6年。そこに掲げられた17の「ゴール」および169の「ターゲット」、いわゆる「SDGs」(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)に沿って、各国では様々な取り組みが進んでいるようだ。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役 児玉 直)
お客さんの「夢」に寄り添え
川邊氏のキャリアの出発点をなす西日本相互銀行は、1951年施行の相互銀行法に基づき設立された、中小企業専門の金融機関であった。事業活動に制約の多い相互銀行でありながら、高度成長の波に乗って業績をみるみる伸ばし、55年には福岡証券取引所に上場。68年の合併転換法成立に伴い、日本相互銀行が都市銀行の太陽銀行(現・三井住友銀行)へ転換したのちは、業界随一の預金量を誇る「日本一の相互銀行」として全国にその名をとどろかせた。70年代前半には東京・大阪証券取引所にも上場を果たす。川邊氏は、同行のそうした華々しい一時代を築いた銀行マンのひとりだったのだ。氏は、支店長時代のことを振り返つつ、こう語る。
「営業に行く部下に私はよくこう言いました。お客さんのところに預金をお願いしに行くのは当たり前。それだけでなくて夢を聞いてきなさい、お客さんの夢を、と。夢とは実現していないもの。つまりニーズです。けれども、それを知るために『お客様の問題点は何ですか』という尋ね方をしては、『なぜそんなことをあなたに話さなくてはならないか』と、かえって拒絶されてしまう。
むしろ、『これだけの期間でこんなに業績を挙げられ、資金もこんなにお持ちなのだから、思い描いて来られた夢は全部成し遂げられたことでしょう』と尋ねるんです。そうすれば、『いや、夢ならまだありますよ』と心を開いてくださるんですね。そして、その実現に向けて何を必要とされているのか、こちらにお手伝いできることがないか、話が弾んでいくのです。こうやって、お金だけでなくプラスアルファのことも融通していったわけです。」
つまり、今後どんなことをしたいのか、今の事業がどんな風になることを望んでいるのかといった、心のなかに大切にしまいこまれている未来予想図=潜在需要を共有し、その実現の手助けとなる提案をセットで行う営業を地道に積み重ねていったのだ。夢を叶える能力が自社になければ、その能力を有する別の取引先を紹介する。それは、まずは双方の喜びであり、のちに預金というかたちで自社の喜びとなる。この「三方よし」こそが、川邊氏自身の喜びであり続けているものにほかならない。
人脈こそがイノベーションを生み出すインフラ
1984年4月、西日本相互銀行は㈱西日本銀行として再出発した。それまでの約10年間、オイルショックの影響で経営悪化に陥った高千穂相互銀行を支援してきたが、いよいよこれを合併。同時に長らく取り沙汰されてきた普通銀行転換を果たしたのである。だが、これによって同行は、資金規模第11位の「その他大勢のなかの1つ」になってしまう。
ほどなく起こったバブル経済崩壊がそこに追い打ちをかける。次々と規制緩和が行われ、外資や異業種の企業が続々と金融業に参入してくる。「それまでは、社長さんたちは資金さえあれば、何でも思い切ったことができました。日本は焼け野原からのスタートでしたからね、一生懸命働けば報われました。ところが時代が変わった。金融だけで他にお客さんの役に立つものがなければ、いずれ見捨てられる」。こうした危機感のもと、自社のアイデンティティを明確化するために目指されるようになったのが、「お客様に役立つ情報を提供できる銀行」だった。
普銀転換直後に発足していた法人営業のプロジェクトチームが、その目標に向かっての実働部隊となった。コンセプトは、「金」融商品を売り込むのではなく、(規則上手数料は受け取れないが)相手が必要とする「情報」や「知恵」、何より「人」を「融資」すること。川邊氏はお客のニーズをキャッチするためさまざまな集まりに日々足を運び、親交を結ぶ経営者の数をどんどん増やしていった。チームを率いた12年間を、氏は次のように述懐する。
「当時、中小企業は深刻な人材不足に悩んでいました。何か新しいことを始めようとしても、できる者は社長しかいない。上場したい、でもその手続きを行える社員がいない。だから、お金はいらない、人が欲しいと、多くの経営者さんが切実に考えておられたわけです。それではふさわしい人を応援に出しましょう、という話になっていきました。言うなれば、『人融』ですね。
そうしてお客さんのさまざまなお考えやご要望を聞いていきながら、今度はこのひとにあのひとのところを教えてあげよう、両方ともきっとお喜びになる、ということを考えてばかりいました。金を融資するだけでは関係はなかなか続きません。でも、人という資本を介するとき、関係は長く続くんです。そこでは、まずこちらが相手にギヴ(give)することが大事なのではないでしょうか。」
こうして培われ広がっていった「ご縁」=人脈が、川邊事務所の事業の礎となった。必要とする時に持てる経営資源を貸してくれる、目に見えない大きな資本としての人脈。氏に言わせればそれはまさに「インフラ」であり、イノベーションを生み出す土壌にほかならない。
「自分だけで役に立とうとしても限度があるんです。でも、いろんな人の知恵をお借りするインフラさえあれば、たとえその時は100%成功しなくとも、いつか思いがけない発見と革新が生まれてくるものです」。
(つづく)
【文・構成:黒川 晶】
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