2024年11月26日( 火 )

芸備線存続・活性化に向けた沿線の取り組み(後)

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運輸評論家 堀内 重人 氏

試験的にバスを増発も「廃止に」

(2)三次~備後落合間

 三次~備後落合間は普通が上り3本、下り5本である。三次~備後庄原間は、普通が上り3本、下り2本が運転されており、曜日によっては5~6時間ほど列車がない時間帯がある。

 せめて2時間に1本の運行頻度がなければ、利用したくても利用できない。5~6時間も列車がない時間帯があるという状況は解消しなければならない。

 沿線には帝釈峡という観光地があることから、土日には広島~備後落合間で、観光列車を設定することが望ましい。幸いなことに、備後落合では「奥出雲おろち」というトロッコ列車と接続することから、観光客の需要が開拓できる。そして落石対策のため、25km/hへの大幅な減速を解消する方向へ向かわなければ、高校生であっても50ccの原付での移動を選択するだろう。

(3)備後落合~備中神代(新見)間

鉄道 イメージ この区間を走る全列車は、伯備線の新見発着である。新見からの列車の半分は、東城までの運転である。備後落合~東城間は、1日わずか3往復の「超過疎路線」であり、JR西日本管内では最も輸送密度が低く、2018年度は1日当たり9人だった。2005年3月1日のダイヤ改正までは、備後落合~東城間が5往復、東城~新見間が7往復だった。この区間では、早朝に1本だけであるが、新見発、備後落合行きの快速列車が運転されているが、筆者は、この快速列車は、備後庄原~新見間で運転する必要があると考える。

 備後庄原・備後落合地区の人が、岡山・京阪神、名古屋へ行く際、非常に不便であり、備後庄原~新見間に快速列車を、1日に最低でも6往復設定し、特急「やくも」や「サンライズ出雲」と接続させる必要がある。

 快速列車を設定することから、落石対策の25km/h区間は、解消させるようにしなければならない。

 この区間も、活性化に向けた取り組みが行われたことがあった。2020年4月4日から同年7月31日までの3カ月間だったが、利用促進のための増発が行われた。新見発東城行きが2本、備後落合発新見行きと東城発新見行きが、各1本増発された。そして定期列車の新見発東城行き1本が、備後落合行きとして延長運転されたが、コロナ禍であったことや、試験増発の期間が3カ月では短すぎるため、十分な結果が残せなかったといえる。

 かつて三江線でも、列車交換設備がないため、バスを用いて試験増発を実施したことがあったが、3カ月間と期間が短かった。増発したバスには、最終的に1便あたり4名が乗車するようになったが、JR西日本は「効果が無かった」として、廃止に向けて動いてしまった。

 試験増発の効果を見極めるには、せめて半年は様子を観る必要がある。夏休みなどは、「青春18きっぷ」で訪問する人もいるため、輸送量が伸びる可能性が高い。

 とくに輸送量の少ない備後落合~東城間も、せめて3時間に1本ぐらいの運行頻度は、欲しいところである。このような状態では、高校生も通学で利用することができず、スクールバスを利用するようになる。

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 JR西日本からすれば、通学定期で高校生を輸送しても、手間ばかり要して利益が出ず、赤字になるだけなので、やる気が出ないのは致し方ないが、それを改善するには、広島県や岡山県が、文教予算を活用して、通勤定期券と通学定期券の差額を、JR西日本に補助する必要がある。

「公有民営」の上下分離経営を

 芸備線で、輸送密度が格段に下がる三次~備中神代(新見)間は、公有民営の上下分離経営を実施する方向を目指す必要がある。これが実施されれば、芸備線の25km/hへの徐行区間も大幅に減少し、列車のスピードアップにも繋がり、活性化も可能となる。

 もし芸備線の三次~備中神代(新見)間が廃止されるようなことになれば、備後落合で接続する木次線や塩町で接続する福塩線の利用者が減少して、廃線の危機に陥るだけでなく、新見で接続する伯備線の利用者も、減少することになる。

 「公有民営」の上下分離経営を実施するには、財源が必要となる。県庁や市町村役場、公民館、図書館などの公共施設の駐車場を有料化し、その財源を充当する方法以外に、山の間伐も十分に行われていないため、森林税の一部活用も考えられる。過剰なクルマ社会であるため、ガソリン1Lあたり1円、軽油は0.75円を新たに課税して、公有民営の上下分離経営を実施する財源としたい。

 「公有民営」の上下分離経営が実現した事業者は、インフラの維持・管理から解放されるため、旅客サービスの向上へ振り向ける資金的な余裕が生まれ、サービスが向上している。

 まずは芸備線の三次~備中神代(新見)間で「公有民営」の上下分離経営を実施することにより芸備線を存続させると同時に、それによって生じた資金面のゆとりを活用して、芸備線全体のサービス向上を図り、芸備線を活性化させることが望ましい。

(了)

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