2024年11月29日( 金 )

己の最良の師は己自身 人は気づきと出会いで磨かれる

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元(株)西広(現・(株)九州博報堂)取締役営業本部長
(株)アグリス九州顧問 播磨 憲仁 氏

「何のために生きるのか」問い続けた日々

播磨 憲仁 氏

 若いころから人生の意義について考えてきたという播磨憲仁氏。中学2年生のころ、「人はなぜ生きるのだろう」とふと疑問を抱き、以来人に会うたび意見を求めていった。大学2年生のときに、自治寮の先輩に「それは明確な答えがある数学などの問いとは違って、正解のない質問だよ」と諭されるまで、問いかけは約7年続いた。

 そんな同氏にとって、いまも忘れられないひとつの出来事がある。大学卒業後、公告会社の(株)西広(現・(株)九州博報堂)の社員となった同氏だが、長崎県の顧客を担当していたとき、お世話になっていたお客から福岡での案件を紹介されたことがあった。組織のルールに従い、本社の開発部長と福岡の責任者を紹介した播磨氏。ところが、そのお客は不快感もあらわに、氏にこう言ったというのだ。「私は、播磨さん、あなたと仕事をしているのです。あなたは(営業担当)エリアを、組織を超えるべきです」。

 この言葉は播磨氏に衝撃を与えた。同時に、お客にいち個人として真剣に向き合うことの大切さが胸に刻み込まれた。以来、同氏は以前にもまして、クライアントのために最善となることを徹底的に考え、仕事に取り組んでいったという。

仏典との出会いから得た信念

 自分を成長させてくれた人物は誰かと尋ねられれば、多くの人は、両親や学校の恩師、会社の上司などを挙げることだろう。しかし、播磨氏にとって、それは自分自身にほかならない。

 このような認識に至ったのには、ひとえに仏教の経典『法句経』との出会いがあったと氏は語る。若いころ、多忙な仕事の合間をぬって、自身を鍛えるための滝行を始めた。厳しい修行の拠り所となったのが、同経典の「己こそ己の寄る辺、己をおきて誰に寄るべぞ。よくととのえし己にこそ、まこと得難き寄る辺をぞ得ん」という一節。自分こそ自分のよりどころであり、ほかに頼れる人はいない。よく調整された自分こそが、本当に得がたいよりどころである、という意味の言葉である。ここから「自分を最もよく成長させる先生は自分自身である」という信念が導かれたわけである。

 経営者としても、播磨氏は数字だけを追い求めるのではなく、社員のやる気に火を点けることで業績を上げようと努めてきた。定期的に部下との個人面談を行うが、その際、部下が以前に書いた自己評価も毎回一緒に目を通す。こうすることで部下たちは、上司が指摘するまでもなく自らの課題を分析しこれに向き合い、さらなる成長へ向けていっそう励むようになったという。

 「人は生まれながらに大きな力をもっていますが、それは人との出会いによって磨かれ、表出してくるもの。人とのご縁を大切にし、約束したことをきちんと実行することが肝要でしょう」と、穏やかに、だが力強く語る播磨氏。自らの心身を鍛え上げ、いち個人として人との出会いを大切にし続けてきた氏の言葉に、今後も耳を傾けていきたい。


<プロフィール> 
播磨 憲仁(はりま けんじ)
1941年福岡市生まれ。69年専修大学経済学部卒業後、(株)西広(現・(株)九州博報堂)に入社。長崎支社には22年勤務した。同支社長、本社取締役営業本部長を歴任。現在は(株)アグリス九州などで顧問を務める。趣味は読書。坂村真民氏の「二度とない人生だから」などの詩を愛するとともに、多大な影響を受けた。

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