2024年11月24日( 日 )

【大企業の「解体新書」】東芝解体の前にセゾングループの解体が(後)

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 経営理論には流行がある。2021年の経営改革のキーワードは「会社分割」になりそうだ。(株)東芝の会社3分割が話題になったが、海外でもグローバル企業の会社分割がトレンドだ。バブル崩壊後はセゾングループの解体があった。会社分割に至る経営理論の変遷をたどってみよう。

セゾン解体後のグループ企業の行方

渋谷パルコ セゾングループの解体で、傘下の企業はどうなったか。

 解体後、紆余曲折を経て、百貨店の(株)西武百貨店(現・(株)そごう・西武)、生活雑貨チェーンの(株)ロフトは(株)セブン&アイ・ホールディングスの傘下になった。

 都市型商業施設の(株)パルコは、J・フロントリテイリングの傘下に組み込まれた。

 コンビニの(株)ファミリーマート、牛丼チェーンの(株)吉野家ディーアンドシー(現・(株)吉野家ホールディングス)は、伊藤忠商事(株)がグループ入りさせた。その後、吉野家HDは伊藤忠から保有株を買い取り自立した。

 スーパーマーケットの(株)西友は、米ウォルマートの子会社となった。2021年にウォルマートは保有する株式の大半を、投資ファンドのコールバーグ・グラビス・ロバーツに売却した。

 クレジットカードの(株)クレディセゾンは、セゾングループ解体後もセゾンという社名を残している。「無印良品」として知られるPB(プライベートブランド)商品を展開する(株)良品計画は自立した道を歩む。

 セゾン解体の引き金を引いた、不動産・住宅・商業施設・リゾート開発の(株)西洋環境開発は2001年に特別清算を申請して消滅した。

パルコは渋谷を若者の街にした

 セゾングループの鎮魂歌といえる『セゾンの挫折と再生』(由井常彦・田付茉莉子・伊藤修共著)では、セゾンは解体されたが、「セゾン文化は残った」と書かれている。

 セゾングループの総帥・堤清二氏の思想が凝縮したパルコと無印良品を取り上げてみよう。そのくだりを引用する。

 〈セゾン文化という言葉には、洗練された新しい知性という意味が込められていた。そのようイメージをつくった源流のひとつはパルコである。

 パルコは創業期から高度に洗練された広報・宣伝活動を繰り広げた。パルコ創業者の増田通二は、池袋という街の欠陥を文化性の欠如と捉え、池袋の街自体がよくならなくては百貨店の成功も意味がない、と考えていた。その発想で、新鮮で刺激的な広告を池袋パルコの外壁面にディスプレレイした。

 さらに渋谷では、それまで人通りの少ないさびれた通りを公園通りと名づけて、渋谷パルコ周辺の町づくりに取り組んだ。パルコの広報・宣伝活動を担ったのは、デザイナーの草刈順、プロデューサーの小池一子、イラストレーターの山口はるみといった人たちであった。パルコのデザインは、当時の人びとにとっては常識を超えて、斬新な感覚をもつもので、社会的に高く評価されたのである〉

    NHKホールに続く坂道を「公園通り」と命名して整備し、若者を惹き寄せた。そこに集まる若者を目当てに多くのファッショナブルな衣料品や飲食店が周辺に出店し、パルコ文化の発信地となった。パルコは渋谷を若者の街にしたのである。

「アンチブランド」がブランドになった無印良品

 〈西友がPB商品として開発した無印良品も、そのネーミングや「わけあって、安い」というコピー、そして内装・店舗設計にも、デザイナー・クリエーターの田中一光や杉本貴志がかかわっていた。

 堤清二は、無印商品とは第一に思想性であり、それはすなわち反マスプロや反寡占メーカーに「反体制商品」であることに意義があると強い訴求力をもったのである〉

    無印良品は、セゾングループの総帥、故・堤清二氏の経営思想が凝縮された代表作だ。

 堤氏は、無印良品立ち上げの経緯について、哲学者のジャン・ボードリヤールの『消費社会の神話と構造』に触発され、商品にブランド名が付くだけで価格が上昇する現象に疑問をもち、ブランドを与えないことで価格を抑える方が消費者に喜ばれると考えたことが動機になったと述べている。

 堤氏は無印良品のコンセプトを「反体制商品」とした。経営者の言葉としてはあまりにも観念的で、いかにも学生運動出身者らしいアンチブランドのアジテーションだ。

 無印良品のヒットは、詩人である堤氏の美学に反したようだ。アンチブランドの「反体制商品」のはずが、ブランド化し「体制商品」になったからだ。

 〈1991年、ロンドン市内に進出したばかりの「MUJI」の店舗を視察した堤清二は表情を曇らせ、こう語った。「ブランドを否定して生まれた無印良品が、結局ブランドになってしまっているな」〉

(「日経ビジネス」2017年11月20日号)

    セゾングループは解体されたが、グループ企業は日本の流通市場にしつかり根付いている。「詩人経営者」堤清二氏が遺した最大の遺産といえる。

(了)

【森村 和男】

(中)

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